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現代の眼 教育普及 自宅からの美術館デビュー――活動報告 おやこでトークONLINE

細谷美宇 (企画課特定研究員)

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本稿では、当館で初めて開催したオンラインのファミリープログラム「おやこでトークONLINE」について報告する。2014年より継続してきた「おやこでトーク」がコロナ禍で休止となったことから、同企画のオンライン版として開催したものだ。実施日時は2021年8月16日(月)/23日(月)、各日10:30~11:30/14:00~15:00、年中~年長の幼児とその家族全44組が参加した。

対面の「おやこでトーク」では、ガイドスタッフ(解説ボランティア)とともに60分かけて3点の作品を鑑賞する。幼児が楽しめるアクティビティを含むギャラリートークが特徴で、色・形/身体性/ことば・お話の3つの視点を取り入れ、簡易な描画や工作、身体活動、お話づくりなどを通して幼児やその家族が美術館に親しむきっかけを作ってきた。本プログラムではそれらの経験と、2020年10月より開始したオンライン対話鑑賞1によって蓄積したノウハウとを組み合わせ、教育普及室とガイドスタッフがアイデアを出し合いながら企画した。加えて、幼児の活動の特性からオンラインでのコミュニケーションのみではなく触れられる教材を用いることとし、事前に「美術館からのお手紙」を郵送した。プログラムの大まかな流れは以下の通りである。

[当日60分]
事前教材(お手紙)の送付
ガイダンス[10分]教材の使い方、美術館の紹介
ギャラリーツアー[15分]高村光太郎《手》まねっこしよう!
対話鑑賞[30分]和田三造《南風》いろをさがそう!
なりきりチャレンジ!
まとめ[5分]ひみつのふうとうを開封
プログラムの流れ

まず、プログラム数日前までに美術館からのお手紙として教材が届く2。幼児向けの封筒2つと保護者向けの参加案内だ。封筒のひとつはプログラム前に開けるもので、アクティビティで使用する準備物(今回はタオル)や日時を記した招待状とワークシートが入っている。ワークシートは3つの「ミッション」を達成するごとに保護者からシールをもらえる仕組みだ。「ひみつのふうとう」の表書きの封筒は指示があるまで開けないよう指示されている。

展示室で案内するガイドスタッフ

当日はお手紙、タオルを手にウェブ会議システムZoomにアクセスする。挨拶の後、まずは展示室から接続しているガイドスタッフと高村光太郎《手》を鑑賞した。ミッション「まねっこしよう!」では、さまざまな角度で映る彫刻を見ながら子どもたち自身の手で同じ形を作り、カメラを通して見せ合った。続いてブレイクアウトルームに分かれ、3~4組の家族とガイドスタッフ2名による対話鑑賞が始まる。和田三造《南風》では2つのミッションが課された。「いろをさがそう!」は、招待状入りの封筒と同じ色を絵の中から見つける遊びだ。子どもごとに別の色が送付され、それぞれ自分の色を探して楽しんだ。「なりきりチャレンジ!」では描かれた場面について家族と話し、人物になりきってポーズをとる。用意したタオルを使用し、頭に巻いたり、風になびかせたりと海の男たちになりきった。ミッションをすべて達成したら、全員で「ひみつのふうとう」を開ける。中にはミッション達成証、今日見た作品の紹介カード、アンケートが入っている。

教材1(招待状、ワークシート)

参加後アンケートは回答27票、平均満足度は5点満点のうち4.41で、幼児、保護者とも楽しめたようであった。また、今後してみたいこととして、対面またはオンラインでのプログラム参加以上に「東京国立近代美術館に子どもと行ってみたい」の回答数が多く、実際に来館し来場者アンケートにコメントを残してくれた家族もいた。「コロナ禍&下の子の世話で、なかなか外出ができない中、美術館に行ったような体験ができ、とても楽しかったです。」「自分宛にお手紙が届いていたのが、とても嬉しかったみたいです。母も、子どもと鑑賞するときのヒントをもらえました。」などの記述もあった。海外、国内遠方からの参加もあり、オンラインならではの範囲で幼児やその家族が美術館に親しむ機会を提供することができた。今後の課題としては、より参加しやすい日程での実施(ギャラリー中継のため休館日=平日の実施であった)、音声・映像の安定した配信が考えられる。当館展示室のネットワーク環境は強靭とはいえない部分もあり、現状ではプログラム構成の工夫によって補う必要がある。教材の事前送付は効果的であったため、引き続きプログラム内容とともに充実させていきたい。

教材2(ひみつのふうとう)

  1. 細谷美宇「コロナ禍の教育普及活動(1)——代替プログラムでの新たな試み」『現代の眼』635号、2021年、44–45頁。
  2. 海外からの参加者にはPDF化した教材をメールで送信した。

 『現代の眼』636号

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