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所蔵作品展 瑛九とオノサト・トシノブ 展
展覧会について 瑛九(本名:杉田秀夫、1911-60)とオノサト・トシノブ(本名:小野里利信、1912- 86)は、ともに戦前から抽象絵画のパイオニアとして活動を開始し、戦後は個々の制作を深めながら、独自の宇宙的なヴィジョンを生み出しました。二人の個性的な世界をご紹介します。
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アジアのキュビスム:境界なき対話
展覧会について ① キュビスム―――直訳すると立方体主義、でしょうか。一説によれば、1908年、ピカソのアトリエでブラックの風景画を眼にしたマティスが、幾何学的な線と面によって表現された画中の家を「小さなキューブ(立方体)」と評したのが、この名称の起こりとされています。 ② 「存在のリアリティは、多数の視点から対象を分析し(解体)、それを一枚の画布上で概念的に再構成(総合)していくことによってこそ、十全に表現される」という認識に支えられた、キュビスムの新たな「まなざし」の発明は、同時期にアインシュタインによって提唱された相対性理論にも比されるべき、20世紀美術最大の革新とみなされています。 ③ では、いわば西欧モダニスムの本流といえるこの「キュビスム」と、「アジア」とが出会った時、そこには何が生まれたのでしょうか。「アジアのキュビスム」、一見対極にあるようにも見えるこの二つの言葉が組み合わさると、実に不可思議な響きを帯びてきます。本展は「アジア」と「キュビスム」、両者の出会いが生み出した芸術的所産を包括的に紹介する、初めての展覧会となります。 ④ ピカソとブラックが1910年前後のわずかな期間に生み出したキュビスムはきわめて観念的な造形実験であり、当時彼らの作品を直接見ることができたのは限られた人だけであったにもかかわらず、様式においても、芸術観においても、その後の美術の展開に地域を越えた広範な影響を及ぼしてきました。アジア諸国も例外ではありません。今回の出品作が1910年代から1980年代にまで渡ることからもわかるように、キュビスム受容の時期や内実は、当然ながらそれぞれの地域によって異なります。しかし「キュビスム=視覚の革命」というフィルターを通すことではじめてあらわになる多様性と普遍性は、個々の国家的枠組みを越えた「アジアの近代美術」の在り方を明らかにし、そしてまた「西対東」という単純な二項対立を超えたところに見出される、新たな「アジア」の輪郭を描き出すことになるでしょう。 本展は東京国立近代美術館、国際交流基金、韓国国立現代美術館、シンガポール美術館の四者による、国際的な共同企画として実施されます。 ここが見どころ アジア11ヵ国から120点 これまで国内の美術館で紹介されることが稀であったスリランカの近代美術を含め、11ヵ国(中国、インド、インドネシア、日本、韓国、シンガポール、マレーシア、スリランカ、フィリピン、タイ、ベトナム)からの出品作品、約120点を展示します。 「国別」の展示ではなく、「テーマ別」の展示により、アジアの近代美術を綜合的に再考 一運動としてのキュビスムの紹介を超えて、アジアにおける国ごとの美術史を綜合的に捉え直すという狙いのもと、国というカテゴリーを解体し、「1.テーブルの上の実験」、「2.キュビスムと近代性」、「3.身体」、「4.キュビスムと国土ネイション」の4つのテーマから、アジアの近代美術の在り方を再考します。 展覧会構成 第1章 「 テーブルの上の実験 」 Chapter 1: On the Table 「静物画」は、西欧において長く「肖像画」、「風景画」、「歴史画」などに劣る地位に甘んじてきましたが、19世紀以降、その重要性は徐々に高まり、20世紀に入ると多くの画家にとってしばしば最も重要なジャンルとなります。描かれたものの意味内容を伝達することよりも、造形的探求に重きをおく近代絵画においては、画家自らが対象を自由に組合せながら構成できる「静物画」が最適であったといえるでしょう。ピカソ、ブラックのキュビスムにおいても、そのモティーフの多くは静物でした。アトリエのテーブル上で瓶やパイプ、カップ、楽器などを構成しながら形態の探求を試みる彼らの制作は、さながら化学実験のようです。アジアの作家の多くも「静物」をモティーフにさまざまな造形的実験を試み、その土地の風物などを織り込みながら、自らのスタイルを「発明」していくことになります。 ジョージ・キート(George Keyt)スリランカ [1901-1993] スリランカの近代美術における最重要画家の一人で、1943年に首都コロンボで生まれた前衛芸術運動「43年グループ」の創設メンバーである。スリランカの風物、風景やヒンドゥーの神話といったテーマをキュビスムを用いて表現し、スリランカ美術の近代化を推し進めた。出品作はキートがキュビスム的な様式を取り入れた最初期のもので、マンゴーや団扇といったローカルなモティーフを、キート特有の曲線的な色面分割によって捉えている。 李樺(リー・フア Li Hua)中国 [1907-1994] 1926年に広州美術学校を卒業後、30年に日本に留学。帰国後、34年には「現代創作版画研究会」を組織し、『現代版画』の主編となるなど、中国における30年代の木刻運動の中心的役割を果たす。出品作は彼の個人版画集『李樺色刷木刻十幀』からの一枚。もともと木刻運動は魯迅との関係が深かったこともあり、魯迅が賞賛したドイツ表現主義の版画家ケーテ・コルヴィッツの強い影響を受けていた。李樺自身も「圧政に耐える民衆」といったプロレタリア的なテーマを、表現主義的なスタイルで描き出す作品が主であった。そのなかで、この画集は30年代の中国において、表現主義だけではなく、キュビスムや、未来派などが受容されていたことを示す貴重な作例である。 第2章 「 キュビスムと近代性 」 Chapter 2: Cubism and Modernity ルネサンス以来の一点消失法によるイリュージョニスムを放棄したキュビスムによって提示された、多数の視点から同時に対象を捉えるという認識の方法は、「近代」という時代が生み出した新たな「まなざし」といえるかもしれません。アジアの国々において、「進歩」という理念のもとに進められた社会的な近代化(工業化、都市化)に歩調を合わせるように、各国の芸術家たちも、旧来の自然主義的絵画を打破し、美術の「近代化」を推し進めるために、キュビスムを重要な戦略として利用していきます。 ソンポート・ウッパイン(Sompot Upa-In)タイ [1934- ] 彫刻家としてスタートしたウッパインは1950年代に現れた一群の若手作家の一人として注目を集めた。1930年代にタイ政府に招聘され、後に「タイ近代美術の父」と称されるイタリア人彫刻家コッラード・フェローチ(シラパ・ビラスィー)のもとで学んだ時期に、キュビスム、未来派などの様式を吸収したウッパインであるが、出品作の〈政治家〉は分析的キュビスムを意識的に取り入れた一点。断片化され上下反転した政治家の全身像が、彼の横顔と組み合わされ、再統合されている。ウッパインは政治家を逆さ吊りに描くことで、思い上がりの激しい政治家に対する彼の不信を表明したと述べており、社会的、政治的な問題を多く扱ったウッパインの特質を良く表す作品となっている。 アフマッド・サダリ(Ahmad Sadali)インドネシア [1924-1987] 戦後インドネシアにおいて、前衛的なモダニスムの牙城となった「バンドゥン工科大学美術デザイン学部(ITB)」で中心的役割を果たした画家。当時ITBではオランダ人のリース・ムルダーが教鞭をとっており、サダリをはじめ1950年代にバンドゥンで頭角を現した作家の多くはムルダーから大きな影響を受けた。出品作はサダリがアメリカ留学から帰国した後の作品で、ニューヨークのセントラル・パークの状景をモティーフとしたものである。ここで見られるような、絵画を多面的に構築するというよりは、むしろ平面を線によって分割していく傾向は、サダリのみならずインドネシアのキュビストたち一般に当てはまるものであり、ステンドグラス画家であったムルダーの影響とされている。 第3章 「身体」 Chapter 3: Cubism and Body 「身体」という有機的に統一されたモティーフは、キュビスムという幾何学的な形式によってとらえることが、きわめて困難に思われます。しかしピカソやブラックの初期キュビスムにおける肖像画が示すように、身体を幾何学的に分析、再構成していくさまは、とりわけ見る者に衝撃を与えるものであったのではないでしょうか。アジアの作家たちもまた、「裸婦像」、「群像」、「自画像」といった、絵画に伝統的なテーマをキュビスムという形式を用いて表現することで、新たなスタイルを獲得しようと試みています。 萬鉄五郎日本 [1885‐1927] 1885年岩手県土沢に生まれる。1903年に上京し、白馬会第二洋画研究所でデッサンや油彩を学ぶ。06年に渡米するも美術の勉学の目的は果たせず同年帰国。翌07年に東京美術学校に入学、12年、日本におけるフォーヴィスムの先駆的作品と評される〈裸体美人〉を卒業制作として卒業。同年岸田劉生らとともにフュウザン会の結成に参加。14年から16年にかけて故郷の岩手県土沢に移住していた時期に、萬はキュビスムの造形原理を意欲的に自らの作品に取り込むが、出品作はその探求の一つの到達点を示す作品。キャンバスの矩形に基づき理知的に構成された画面からは、萬のキュビスム理解がかなりの段階に達していたことが見て取れる反面、緑色の日本髪や赤茶の人体はその構成に収まりきらない、呪術的でなぞめいた存在感を放っている。 チョン・スーピン(Cheong Soo Pieng)シンガポール [1917‐1983] シンガポールにおける近代美術の成り立ちは、1930年代末以降に移住してきた中国系の画家達の存在を抜きには語れない。スーピンも上海で美術を学んだ後、46年に共産党と国民党の内戦を避けてシンガポールに渡ってきた。1940年代末には早くも、マレー半島固有の文化を摂取しながら、強調された線や平坦な色面、形態の単純化などが特徴的な自身の様式を確立していく。出品作の〈マレーの女〉は、彼の作品の中でもキュビスムの影響が色濃い一点。鋭い線で色面分割された空間の中で、部分的に身体が透過したマレー人女性が、謎めいた表情で頬杖をついている。画面上部から身体を貫くように三角形の色面が切り込んでおり、光にさらされた身体と陰の中に浮かぶ身体、あたかも複数の視点が一つの画面で総合されているかのようである。 第4章 「キュビスムと国土ネイション」 Chapter 4: Cubism and Nation アジアという地において、キュビスムは伝統的風物や歴史的事件と、あるいは豊穣なる収穫の営みや混沌として猥雑な都市と、そしてまた宗教や神話といったモティーフと結びつきながら、独自の様式へと爛熟していきます。「キュビスム」と、これら「国土」とでも総称できよう要素との結びつきは、ピカソ、ブラックのキュビスムには見られなかった、極彩色を多用したあざやかなキュビスムを誕生させる大きな要因の一つとなります。 タ・ティ(Ta Ty Cpre-V-wan)ベトナム [1920- ] 仏領インドシナのインドシナ美術学校の最後の卒業生。1954年国家が南北に分断されるまでハノイに在住したが、以後は南ベトナムに住む。75年国家統一に際し、再教育キャンプに送られ、83年からカリフォルニアに居住。出品作は画家が自らの「キュビスム期」と呼ぶ頃の一点。キュビスム的な面の分割と鮮やかな色彩の組合せが目を惹く。現状の「北」中心のベトナム近代美術史において語られることは希であるが、「南」における美術活動を知る上で、貴重な作家である。 ヴィセンテ・マナンサラ(Vicente Manansala)フィリピン [1910-1981] フィリピン大学卒業後、カナダ、フランスへ留学。フィリピンにおけるキュビスムを考える際の最重要作家。ガラスのような色面が重層するその様式は「トランスペアレント・キュビスム(透明なキュビスム)」と称される。人物、都市風景、政治、宗教(教会の壁画)、歴史など、あつかうモティーフも多彩であった。出品作は19世紀末のフィリピンの国民的画家フアン・ルナの〈血の同盟〉(註)をキュビスムの様式で変奏させたポスト・モダン的ともいえる異色作。 註:1565年、フィリピンを統治したスペインの初代総督ミゲル・ロペス・デ・レガスピが艦隊を率いてボホール島へ上陸、当時の島の酋長シカツナはレガスピを受け入れ、事実上のスペイン軍の支配とキリスト教を受け入れ、両者が互いの腕を傷つけて流した血をワインに落して飲み干したという史実。 宗教と神話 Religion and Myth アジアのキュビスム独特の要素として、とりわけ目立つのがキュビスムと宗教・神話との結びつきです。1950年代にカトリック信仰の篤いフィリピンで、マナンサラやガロ・B・オカンポ(表紙参照)といった作家がキリストの磔刑図とキュビスムの融合を図るなど、精神的、象徴的なテーマをモダニスム的な視点から解釈するという傾向が広くアジア全体に認められます。 ガガネンドラナート・タゴール(Gaganendranath Tagore)インド [1867-1938] 詩聖タゴールの従兄の長男。独学で絵画を習得し、弟アバニンドラナートとともにベンガル・ルネサンス運動の中心的人物としての役割を果たす。同時代の西欧の芸術動向に強い関心を向け、版画、写真、舞台装飾も手がけるなど多彩な才能を発揮した。親交のあった横山大観に感化され、日本画の技法を用いた制作も行なう。1920年代にインドで初めてキュビスムや未来派の様式を取り入れた画家とされ、構成的な様式とインドや東洋の神秘主義との融合を図った。 イベント情報 トークイベント 聴講無料、申込不要、先着150名 中村一美(美術家)&松本透(当館企画課長) 8月27日(土) 14:00 - 15:30 当館講堂 木下長宏(評論家)&林道郎(上智大学助教授) 9月17日(土) 14:00 - 15:30 当館講堂 担当学芸員によるギャラリートーク 9月3日(土)14:00 - 15:009月24日(土)14:00 - 15:00 要観覧料 開催概要 東京国立近代美術館 本館 企画展ギャラリー (1階) 2005年8月9日(火)~10月2日(日) なお、会期は都合により変更となる場合があります。 午前10時から午後5時まで金曜日は午後8時まで(入場はそれぞれ閉館30分前まで) 月曜日(9月19日は開館、翌日休館) 一般650(550/450)円大学生350(250/200)円高校生200(150/100)円小・中学生無料 ( )内は前売/20名以上の団体料金の順。いずれも消費税込。 東京国立近代美術館、国際交流基金、韓国国立現代美術館、シンガポール美術館 JAL 徳寿宮美術館: 平成17(2005)年11月11日(金)~平成18(2006)年1月30日(月)シンガポール美術館: 平成18(2006)年2月18日(土)~4月9日(日) 03-5777-8600 (ハローダイヤル) 国際シンポジウム2005「アジアのキュビスム」2005年9月10日(土)・11日(日)会場:国際交流基金フォーラム 東京都港区赤坂 2-17-22 赤坂ツインタワー 1F*入場無料、定員200名、日英同時通訳付お問合せ:国際交流基金芸術交流部(担当:古市)tel: 03-5562-3529 fax: 03-5562-3500URL: http://www.jpf.go.jp 「所蔵作品展 近代日本の美術」 所蔵品ギャラリー(4 - 2階) 観覧料:一般420(210)円、大学生130(70)円、高校生70(40)円小・中学生、65歳以上無料、9月4日、10月2日は無料(所蔵作品展のみ)( )内は20名以上の団体料金、いずれも消費税込み「アジアのキュビスム」展観覧券で「所蔵作品展」をご覧いただけます 「ドイツ写真の現在」2005年10月25日(火)~12月18日(日)
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ドイツ写真の現在:かわりゆく「現実」と向かいあうために
展覧会について ドイツ写真の現在――かわりゆく「現実」と向かいあうために 1990年代以降、国際的に高い評価を得てきたドイツの現代写真。ベルント&ヒラ・ベッヒャーが1950年代末からとりくんできた作品「類型学(タイポロジー)」に代表されるように、彼ら/彼女たちは、写真の特質を生かした、世界を精密に分析する作品によって、現代美術の世界で注目されてきました。 1989年秋にベルリンの壁が崩壊して東西が再統一されたドイツにとって、1990年代は変革の時代でもあります。そうした時代のなかで、ミヒャエル・シュミットは自ら長く住んできた西ベルリンを主題とした作品を、ヴォルフガング・ティルマンスはグローバル化する社会に生きる若者の文化を捉えた作品を発表してきました。近年では、ライプツィヒなど旧東ドイツ出身の新世代の活躍や、デジタルテクノロジーを利用した作品が注目されはじめています。 この展覧会では、多彩な展開をみせるドイツ写真の現在を、「現実」にたいしてさまざまなアプローチを試みている十人の作家たちの仕事によって紹介します。それはまた彼らと同時代を生きる私たちにとっても、かわりゆく「現実」と向かいあうための何らかの視点を見出す機会を与えてくれることとなるでしょう。 ここが見どころ 現代写真を代表する5人の作家+台頭めざましい5人の作家を紹介デジタルテクノロジーを利用した写真など、ベッヒャー・シューレ(ベッヒャー派)以降の世代も紹介出品作家によるトーク・イベント決定!ドイツ写真の源流「アウグスト・ザンダー展」を同時開催。あわせることで、ドイツの写真の近代と現代がわかります展覧会は、ミュンヘンのピナコテーク・デア・モデルネが特別協力京都国立近代美術館 [2006年1月6日-2月12日] と丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 [2006年3月12日―5月7日] に巡回(「ドイツ写真の現在」のみ)カタログ、チラシ、ポスター、チケットは、雑誌『流行通信』のアート・ディレクションで知られる服部一成がデザイン「日本におけるドイツ2005/2006」の参加行事「日本におけるドイツ2005/2006」で現代美術を同時期に開催する三館が広報で連携 東京オペラシティアートギャラリー:シュテファン・バルケンホール展 10月15日(土)-12月25日(日) 川村記念美術館:ゲルハルト・リヒター展 11月3日(木・祝)-1月22日(日) 作家紹介 ベルント&ヒラ・ベッヒャー Bernd & Hilla Becher (1931- /1934- ) 1950年代末から、給水塔、炭鉱の採掘塔、鉄鋼所の溶鉱炉などの産業建築物の撮影を始める。均質な曇り日の光線のもとで細部まで精密に撮影した写真を、機能や構造に従い「類型学(タイポロジー)」的に組み合わせた作品は、60年代にコンセプチュアル・アートの文脈で評価された。1976年ベルントはデュッセルドルフ美術アカデミーの最初の写真科教授に就任。彼のもとで学んだトーマス・ルフ、トーマス・シュトゥルート、アンドレアス・グルスキーたちは「ベッヒャー・シューレ(ベッヒャー派)」と呼ばれ、80年代末より国際的に高い評価を受けるようになる。1990年「ヴェネツィア・ビエンナーレ」展ではドイツ代表に選ばれ、2004年には写真界に国際的な功績を残した写真家に贈られるハッセル・ブラッド国際写真賞を受賞、また同年よりデュッセルドルフの州立美術館を皮切りに、大規模な回顧展がポンピドーセンターなどヨーロッパ各地を巡回。 ミヒャエル・シュミット Michael Schmidt (1945- ) ベルリン生まれ。独学で写真を学び、60年代以来フリーランスの写真家として活動。一貫してベルリンとその住民をテーマとして写真を撮り続け、『都市風景と人間』(1978)や 『ベルリン・ウェディング』(1978)などの写真集を発表、注目を集める。ベルリンという特異な歴史・政治的状況に置かれた都市に対する、「トポグラフィカル・ドキュメンタリー」ともいうべき独特のアプローチは、ベルリンの壁をモティーフとした『休戦 』(1987)などを経て、ベルリンの壁崩壊と東西統一をはさんだ時期のベルリンを、新聞写真など既成イメージを盛り込んで重層的に描出した写真集『統・一』(1995)へと至っている。「ベッヒャー派」に代表されるドイツ写真界のなかで、ひときわ異彩を放ちつつドイツ社会の現実を見つめてきた重要な写真家。今回は、160点から成る『統・一』から作家自身が選んだ83点を中心に展示する。 アンドレアス・グルスキー Andreas Gursky (1955- ) ライプツィヒに生まれ、幼少時に両親とともに西ドイツに移住。デュッセルドルフ美術アカデミー写真科でベルント・ベッヒャーに学び、80年代後半から作家活動をはじめる。初期の、なにげない都市の風景を精緻に描写しつつ、その画面に控えめに人影を取り込んだ作品は、現代社会における人間のあり方に対する批評的な視線を備えており高い評価を得た。90年代後半からは、証券取引所やサッカー場、図書館、オフィスや集合住宅など、資本主義社会の様態を象徴的にあらわす場所を、デジタル加工を取り入れた手法により、パノラミックで巨大な作品へと展開する。2001年のニューヨーク近代美術館での大規模な個展をはじめ、世界各地で展覧会に出品、2002年にはニューヨークの現代美術オークションでその作品が70万ユーロで落札されるなど、90年代以降、現代美術の文脈で国際的に影響力を持ったベッヒャー派を代表する存在である。 トーマス・デマンド Thomas Demand (1964- ) ミュンヘン近郊のシャフトランに生まれる。両親は画家、祖父の一人が建築家という家庭に育ち、ミュンヘン美術アカデミーでインテリア・デザイン、デュッセルドルフ美術アカデミーで彫刻を学んだのち、フランス、イギリスへ留学。当初は自分の彫刻作品を記録するために写真を用いていたが、90年代初頭から、建物や室内などの実物大の模型を紙で製作し、撮影するという独自の手法で作品を制作し始める。模型のモデルとなっているのは、新聞や雑誌に掲載された、しばしばドイツ戦後社会において重要な意味を持つ歴史的事件の現場の写真である。デマンド自身にとってのドイツの戦後史の意味を再確認する作業であると同時に、メディアを通して流通するイメージが形成する現代社会のリアリティについての根源的な批評をはらんだ仕事として、高く評価されている。2005年ニューヨーク近代美術館で個展が開催されるなど、現在国際的にもっとも注目されているドイツ写真家のひとり。 ヴォルフガング・ティルマンス Wolfgang Tillmans (1968- ) レムシャイト生まれ。80年代末、クラブ・シーンなどのユース・カルチャーをとらえた写真を雑誌に発表し始める。1992年ロンドンに移住、『i-D』などのカルチャー雑誌にファッション写真やポートレイトを発表して人気写真家となった。日常をとりまく事物のスナップショットから光と色彩による抽象的な写真まで、さまざまなイメージを等価にあつかいながら、コマーシャル/アートといった既存の枠組みにとらわれない活動を展開している。また世界各地の美術館やギャラリーで開催した展覧会では、さまざまなフォーマットの写真で空間を構成する独自のインスタレーションを発表している。2000年、ターナー賞を受賞。2003年にはロンドン、テート・ブリテンで大規模な個展が開催された。2004年には東京オペラシティ・アートギャラリーで個展が開催されるなど日本国内でも人気が高い。 ハンス=クリスティアン・シンク Hans-Christian Schink (1961- ) 旧東独エルフート生まれ。ライプツィヒ視覚芸術アカデミーで写真を学び、1993年同校修士課程修了。建築写真を主に手がけ、精緻で簡潔な記録写真の手法による主観を排した作品を90年代初頭から発表し始める。2004年に発表した写真集『トラフィック・プロジェクト』は、再統一後の旧東独地域の社会基盤整備として1991年に着手されたドイツ政府主導の事業「ドイツ統一交通網計画」をめぐるもので、道路や橋、鉄道などの巨大建造物を静謐な描写によってとらえ、脚光をあびた。そこで彼は、再統一がもたらした風景の変容を通じて、社会の根源的な変化を照射している。 ハイディ・シュペッカー Heidi Specker (1962- ) ダンメに生まれる。1984年から1990年までビーレフェルト応用科学大学で写真、映画、デザインを学び、作家活動を始める。1995年ライプツィヒ視覚芸術アカデミー修士課程修了。ベルリンを拠点に、建築をめぐる写真作品を制作。今回の出品作である「庭園にて」のシリーズでも、建築と、その周りの植栽など自然との関係性に注目している。そこでは戦後のベルリンに建てられた無機質な建築が、デジタル加工によって抽象度の高いイメージに変容しながら、素材感や色彩によって、逆説的にある種の感傷や郷愁を喚起させている。2005年秋、シュプレンゲル美術館(ハノーファー)で個展開催予定。 ロレッタ・ルックス Loretta Lux (1969- ) 旧東独ドレスデンに生まれる。ベルリンの壁が崩壊する直前の1989年にミュンヘンに移住、同地のアカデミーで絵画を学ぶ。1999年より写真を用いた作品を制作。スタジオで長時間かけて撮影された子供たちの写真と、風景や室内などさまざまな背景の写真とをデジタル加工によって合成した一連の作品は、観る人に、幼少時の記憶を喚起させると同時に、19世紀の肖像写真や、西洋美術における肖像絵画の長い伝統などとのつながりを連想させる。2005年春にはアメリカと日本で写真集が同時刊行された。 べアテ・グーチョウ Beate Gutschow (1970- ) マインツに生まれる。1993年から2000年までハンブルク美術学校でベルンハルト・ブルーメ、ヴォルフガング・ティルマンスらに学ぶ。同地およびベルリンを拠点に作家活動を始め、デジタル加工によって合成された田園風景写真のシリーズで評価を得る。ヨーロッパの風景画、とりわけ19世紀イギリスの画家コンスタブルらの画風を踏襲しつつ、20~30点もの写真を素材に合成し、大サイズに引き伸ばした作品は、観る者にたいして、西洋社会における自然観や、リアリティとフィクションの境界など、重層的な問いを発する。 リカルダ・ロッガン Ricarda Roggan (1972- ) 旧東独ドレスデンに生まれる。ライプツィヒ視覚芸術アカデミーで写真を学び2004年修士課程修了。2003年にはロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに留学している。在学中の90年代末より作品を発表しはじめ、廃墟となった建物から机や椅子、ベッドなどの家具を持ち出し、スタジオに運んでもともとそれらが置かれていた室内の配置を再現して撮影する一連の作品で評価を得る。2004年、リニューアルしたライプツィヒ造形美術館が新たに始めた若手アーティストの個展シリーズに最初の作家として選ばれた。 イベント情報 出品作家によるトーク・イベント ハンス=クリスティアン・シンク、リカルダ・ロッガン「自作について(仮題)」 10月28日(金) 19:00~19:45 「ドイツ写真の現在」展会場 逐次通訳付、参加無料(要観覧券)、申込不要 講演会 トーマス・デマンド「自作について(仮題)」 10月29日(土) 14:00-15:00 逐次通訳付 多木浩二(評論家) 「アウグスト・ザンダーについて(仮題)」 11月19日(土) 14:00-15:00 聴講無料、申込不要、先着150名 担当学芸員によるギャラリートーク 11月04日(金) 18:00~19:00 ドイツ写真展11月18日(金) 18:00~19:00 ドイツ写真展11月26日(土) 14:00~15:00 ドイツ写真展 参加無料(要観覧券)、申込不要 カタログ情報 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー(1階) 2005年10月25日(火) -12月18日(日) 午前10時から午後5時まで金曜日は午後8時まで(入館は閉館30分前まで) 月曜日 一般650(550/450)円大学生350(250/200)円高校生200(150/100)円小・中学生無料( )内は前売/20名以上の団体料金の順。 いずれも消費税込。 「ドイツ写真の現在」展観覧券で「アウグスト・ザンダー展」と「近代日本の美術」をご覧いただけます 11月3日(木・祝) 東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、東京ドイツ文化センター、読売新聞社 03-5777-8600 (ハローダイヤル) 「所蔵作品展 近代日本の美術」所蔵品ギャラリー(4-2階)*横山大観《生々流転》(重要文化財)を展示します(会期中巻替あり) 「須田国太郎展」 2006年1月13日(金)-3月5日(日) 企画展ギャラリー(1階)「渡辺力のデザイン」展 2006年1月13日(金)-3月5日(日) ギャラリー4(2階)
大竹伸朗展
はじめに 大竹伸朗(1955-)は、1980年代初めに華々しくデビューして以来、絵画、版画、素描、彫刻、映像、絵本、音、エッセイ、インスタレーション、巨大な建造物に至るまで、猛々しい創作意欲でおびただしい数の仕事を手掛け、トップランナーであり続けてきました。近年ではドクメンタ(2012)とヴェネチア・ビエンナーレ(2013)の二大国際展に参加するなど、現代日本を代表するアーティストとして海外でも評価を得ています。 今年で開館70周年を迎える東京国立近代美術館でついに開催される大竹伸朗の回顧展は、国際展に出品した作品を含むおよそ500点を7つのテーマに基づいて構成します。あらゆる素材、あらゆるイメージ、あらゆる方法。作者が「既にそこにあるもの」と呼ぶテーマのもとに半世紀近く持続してきた制作の軌跡を辿るとともに、時代順にこだわることなく作品世界に没入できる展示によって、走り続ける強烈な個性の脳内をめぐるような機会となるでしょう。 「大竹伸朗展」ポスタービジュアル 見どころ 16年ぶりの大回顧展 2006年に東京都現代美術館で開催された「全景 1955-2006」以来となる大規模な回顧展。半世紀近くにおよぶ創作活動を一挙にご紹介します。 およそ500点の圧倒的なボリュームと密度 最初期の作品から近年の海外発表作、そしてコロナ禍に制作された最新作まで、およそ500点の作品が一堂に会します。小さな手製本から巨大な小屋型のインスタレーション、作品が発する音など、ものと音が空間を埋め尽くします。 7つのテーマで体感する作品世界 7つのテーマ「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」に基づいて構成。時代順にこだわることなく大竹の作品世界に没入し、その創作のエネルギーを体感できる空間が出現します。 《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》2012年 展示風景「自/他」 展示風景「移行」 《スクラップブック#71/宇和島》2018-21年 展示風景 ©Kioku Keizo プロフィール 1955年東京都生まれ。主な個展に熊本市現代美術館/水戸芸術館現代美術ギャラリー (2019)、パラソルユニット現代美術財団(2014)、高松市美術館 (2013)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 (2013)、アートソンジェセンター (2012)、広島市現代美術館/福岡市美術館 (2007)、東京都現代美術館 (2006)など。また国立国際美術館(2018)、ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート(2016)、バービカン・センター(2016)などの企画展に出展。ハワイ・トリエンナーレ(2022)、アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2018)、横浜トリエンナーレ(2014) 、ヴェネチア・ビエンナーレ(2013)、ドクメンタ(2012)、光州ビエンナーレ(2010)、瀬戸内国際芸術祭(2010、13、16、19、22) など多数の国際展に参加。また「アゲインスト・ネイチャー」(1989) 、「キャビネット・オブ・サインズ」(1991)など歴史的に重要な展覧会にも多く参加している。大竹伸朗ウェブサイト ©︎Shinro Ohtake, photo by Shoko 作品リスト 大竹伸朗展ではアプリで作品リスト、セクション解説、音作品を提供しています。ご来場前のインストールをお勧めしています。 ご利用手順 アプリストアから「Catalog Pocket」をインストールiOS (App Store) Android (Google play)アプリを起動して「大竹伸朗展」で検索 本アプリは展示室の外でも利用できます。展示室内ではイヤホンをご利用ください。館内では無料Wi-Fi(momat-free-wifi)が使えます。 簡易作品リスト・会場マップはPDF版もございます。ぜひご利用ください。 デスクトップ版リストスマホ版リスト カタログ 価格:2,700円(税込み)言語:日本語、英語(一部)仕様:新聞フォーマット3冊(各16ページ)、B全シート1枚(16面)、パノラマシート3冊(各8ページ)、冊子1冊(128ページ) 内容1 「自/他」「記憶」「時間」2 「時間」「移行」「夢/網膜」「層」3 「層」「音」4 「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」5 「自/他」「記憶」6 「スクラップブック #01-#71、1977-2022」7 自作本8 テキスト+資料 8 テキスト+資料 目次テキスト大竹伸朗、四角い倍音|成相 肇大竹伸朗 音とモンタージュのキャリア|バーバラ・ロンドン大竹伸朗の「ビル景」と香港|ドリュン・チョン臨界量(クリティカルマス)|聞き手:マッシミリアーノ・ジオーニ 音 資料ノートルダム・ホールにおける「クルバ・カポル」パフォーマンス 1980年6月19日(木)live ones! 1985 オックスフォード近代美術館 1985年6月7日JUKE/19. 活動の記録十九の春|大竹伸朗《ダブ平&ニューシャネル》活動の記録大竹伸朗「音」作品の系譜 大竹伸朗 略歴参考文献コミッション・ワーク本カタログ掲載作品に関する作家エッセイ自選リスト作品リスト 開催概要 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー、2Fギャラリー4 2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日) 月曜日(ただし1月2日、9日は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)、1月10日(火) 10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)*入館は閉館30分前まで 一般 1,500円(1,300円)大学生 1,000円(800円) ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は、学生証・職員証の提示により団体料金でご鑑賞いただけます。本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご覧いただけます。 東京国立近代美術館、日本テレビ放送網 株式会社ベネッセホールディングス、公益財団法人 福武財団株式会社オニオン新聞社、一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパン TAKE NINAGAWA J-WAVE 愛媛県美術館 2023年5月3日(水・祝)-7月2日(日)富山県美術館 2023年8月5日(土)-9月18日(月・祝)[仮]
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アウグスト・ザンダー展
展覧会について ワイマール時代のドイツの人々を撮影した膨大な肖像写真の仕事で知られるアウグスト・ザンダー(1876-1964)。 彼はあらゆる階層や職業の人々の肖像によって、ドイツ社会を包括的に描き出す「20世紀の人間」という壮大なプロジェクトにとりくみました。その構想は未完に終わりますが、見取り図として示されていた1929年の写真集『時代の顔』は、当時のドイツ美術における新即物主義(ノイエ・ザハリヒカイト)の潮流ともあいまって大いに注目されるとともに、カメラの特質を生かした客観的で即物的なスタイルは、その後の写真表現に決定的な影響を与えました。 今回の展覧会では、写真集『時代の顔』に収められた60点をケルンのSK文化財団写真コレクションの所蔵作品によって再構成します。ベッヒャー夫妻をはじめ、後続の世代の写真家にも大きな影響を与えたザンダーの仕事を、「ドイツ写真の現在」の源流のひとつとしてご覧いただけるこの機会。近代と現代、ふたつの展覧会を見ることで、ドイツ写真がもっと親しいものになるはずです! イベント情報 講演会「アウグスト・ザンダーについて(仮題)」 11月19日(土) 14:00-15:00 *聴講無料、申込不要、先着150名 担当学芸員によるギャラリートーク 12月09日(金) 18:00~19:00 *参加無料(要観覧券)、申込不要 カタログ情報 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー 2005年10月25日(火) -12月18日(日) 午前10時から午後5時まで金曜日は午後8時まで(入館は閉館30分前まで) 月曜日 一般420(210)円、大学生130(70)円、高校生70(40)円小・中学生、65歳以上無料( )内は20名以上の団体料金、いずれも消費税込み ザンダー展の観覧券で「近代日本の美術」をご覧いただけます 11月3日(木・祝)、11月6日(日)、12月4日(日) 東京国立近代美術館 03-5777-8600 (ハローダイヤル) 「所蔵作品展 近代日本の美術」所蔵品ギャラリー(4-2階)*横山大観《生々流転》(重要文化財)を展示します(会期中巻替あり) 「須田国太郎展」 2006年1月13日(金)-3月5日(日) 企画展ギャラリー(1階)「渡辺力のデザイン」展 2006年1月13日(金)-3月5日(日) ギャラリー4(2階)
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渡辺力:リビング・デザインの革新
展覧会について 渡辺力(1911‐)は、1950年以降、家具やプロダクトで日本のモダン・デザインを代表する作品を発表し、戦後日本のデザイン運動を牽引してきたデザイナーの一人です。デザインという言葉が日本社会にいまだ十分に定着していなかった戦後間もない頃、いちはやく確固たる自覚と主張をもって登場しました。 1930年代、今日一般にバウハウスやル・コルビュジエに典型的な思想と作品が見出されるとされるモダン・デザインに触れた渡辺は、機能に裏打ちされ、かつ日本の生活に立脚したかたちを追求してきました。床座を旨とする日本の住生活に、西洋の生活様式の構成要素であるイスを見事に融合させ、近代日本の生活スタイルを明快に表現した初期の《ヒモイス》(1952年)⇒写真2 や、伝統的な素材である籐をデザインのプロセスで捉えなおした《トリイ・スツール》(1956年)は、日本のモダン・デザインを体現するものとして国内外で高く評価されています。その後も長きにわたり、住宅建築や企業のビル、大規模なホテルで総合的なインテリア・デザインを数多く手がけ、室内空間から発想し、生活を取り巻くものが生き生きと存在する場を時代のなかで生み出すというデザインの姿勢を貫いてきました。 こうした実践に加え、日本インダストリアル・デザイナー協会(JIDA)や、手仕事の発掘と普及をめざしたクラフト・センター・ジャパンの設立、そのほか多くの批評活動をとおして、いまだ黎明期にあった日本のデザイン運動に方向を与えその発展に尽力したという点でも、重要な役割を果たしました。 本展は、およそ半世紀におよぶ渡辺力の活動の歩みを代表作で回顧する初めての展覧会です。機能と日常に対する透徹した意識、量産を前提とした合理精神がときに禁欲的なまでのフォルムに宿る渡辺のデザインをとおして、日本のモダン・デザインに胚胎した思想を探ります。 作家紹介 1911 東京・白金に生まれる1936 東京高等工芸学校木材工芸科卒業…その後群馬県工芸所に入所し、工芸指導にあたっていたブルーノ・タウトの薫陶を受ける1940 東京高等工芸学校助教授に就任1943 東京帝国大学農学部林学科選科(森林利用学)修了、同大学助手(航空研究所出向)1949 渡辺力デザイン事務所を設立(東京・銀座)1951 新制作展で《ハサミ材による家具》が新建築賞を受賞(東京都美術館)1952 新日本工業デザイン展で《ヒモイス》を発表(日本橋三越・毎日新聞社主催) ⇒写真2日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)が設立され理事に就任清家清設計「齋藤助教授の家」(東京大田区)の家具を担当 ⇒写真31953 国際デザインコミッティー(現・日本デザインコミッティー)を勝見勝・剣持勇・丹下健三・柳宗理らと設立1953 廣瀬鎌二設計「SH‐1」の家具を担当1954 清家清設計「数学者の家」(東京目黒区)の家具を担当1955 銀座松屋にグッド・デザイン・セクションが誕生、《ヒモイス》が選定される1956 財団法人日本生産性本部の要請で、工業デザイン専門視察団の一員として渡米…アメリカの工業デザイン、工場、デザイン教育施設等を視察し、その後単身ヨーロッパをまわって帰国1957 《トリイ・スツール》がミラノ・トリエンナーレで金賞受賞1959 クラフト・センター・ジャパンを勝見勝・加藤達美・菱田安彦・藤森健二らと設立1960 世界デザイン会議のセミナー総会(テーマ「個性」)で副議長を務める《リキベンチ》(天童木工)国産旅客機「YS-11」のインテリアを担当、モックアップを制作 (~1962)1962 清家清設計「島澤先生の家」(東京品川区)の家具を担当1965 《キャスロン401》(コパル) ⇒写真11966 東京造形大学室内建築科が開講し教授に就任《リキスツール》(十条製紙) ⇒写真41967 第13回毎日産業デザイン賞を受賞1971 《小さな壁時計》(服部時計店) ⇒写真5京王プラザホテルのメインバー「ブリアン」のインテリアを担当1972 《ポール時計》(第一生命ビル・日比谷) ⇒写真61976 紫綬褒章を受賞1984 《リキロッカー》(インテリアセンター)1982 清家清設計「軽井沢プリンスホテル南館」のインテリアを担当2005 《腕時計 アルバ》(セイコーウオッチ) イベント情報 対談:渡辺力×山本章(プロダクトデザイナー) 2月11日(土) 15:00~ 展覧会会場 聴講無料(ただし、観覧券が必要です) 学芸員によるギャラリートーク 1月21日(土) 15:00~16:002月18日(土) 15:00~16:0 展覧会会場 聴講無料(ただし、観覧券が必要です) カタログ情報 開催概要 東京国立近代美術館 ギャラリー4(2F) 2006年1月13日(金)~3月5日(日) 午前10時~午後5時 *金曜日は、~午後8時(入館はそれぞれ閉館30分前まで) 月曜日 一般420(210)円大学生130(70)円高校生70(40)円小・中学生・65歳以上無料 ( )内は20名以上の団体料金 /いずれも消費税込無料観覧日は、第一日曜日(2月5日・3月5日)「近代日本の美術」、工芸館「近代工芸の百年」もご覧いただけます 東京国立近代美術館 セイコーエプソン株式会社 セイコーウオッチ株式会社 03-5777-8600 (ハローダイヤル) 1F 企画展ギャラリー 「須田国太郎展」所蔵品ギャラリー 「所蔵作品展 近代日本の美術」工芸館 「所蔵作品展 近代工芸の百年」
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ばらばらになった身体
展覧会について 頭、胸、胴、腕、手、脚――美術家たちはしばしば、身体の一部分だけを切り取って、人間像を表してきました。 たとえば頭部。とくに愛する人の頭部を身体の他の部分から切り離す表現は、長く美術家たちに好まれてきました。洗礼者ヨハネの首を持つサロメのすがたが示すように、相手のもっとも大事な部分を完全に自分の手の中に収めたい、という思いが、こうした表現の原動力となっているのかもしれません。 あるいは手。こちらに触れるやさしい感触を呼び覚ます手は、やはり美術家たちの深い愛着の対象として、しばしばクローズアップで描き出されます。 またはトルソ(頭部や腕、脚など身体の一部を省略して作られた作品)。重要な部分が欠けているという欠落感は、かえってそこにないものを補おうとする想像力を刺激します。 さらに、都市の孤独な生活の中で、ふと自分の身体がばらばらになる恐怖に襲われる、そんな感覚をとらえて表現した作品もあります。 この展覧会は、当館の所蔵品の中から選んだ彫刻、写真、絵画など約25点によって、「ばらばらになった身体」というテーマをさまざまな角度からご紹介するものです。 *所蔵はすべて東京国立近代美術館 ここが見どころ ・「ばらばらになった身体」というひとつのテーマのもとに、時代も技法も異なるすぐれた作品たちが集合します。アメリカの写真家スティーグリッツが、恋人だった画家ジョージア・オキーフを撮った美しい写真は、スティーグリッツの死後オキーフ自身によって当館に寄贈された、非常に貴重なもの。また河原温の伝説的な素描作品《浴室》シリーズ全28点を一挙に展示。めずらしいところでは、30歳で早世した洋画家、佐伯祐三のライフマスクも出品されます。 ・2006年度、当館では、2階にあるギャラリー4(284平方メートル)において、写真やデザインの企画展とは別に、コレクションを中心にした企画性の高い特集展示を行っています。次回は以下の会期で開催します。どうぞお楽しみに。 「リアルのためのフィクション」2007年3月10日(土)~5月27日(日) イベント情報 キュレーター・トーク 2006年8月25日(金)18:00-19:002006年9月9日(土)11:00-12:00 蔵屋美香(本展企画者・主任研究員) 予約不要・聴講無料(要観覧料) カタログ情報 開催概要 東京国立近代美術館 ギャラリー4(2F) 2006年8月5日(土)~10月15日(日) 月曜日(9月18日、10月9日は開館、翌9月19日、10月10日休館) 一般420円(210円)大学生130円(70円)高校生70円(40円)小・中学生、65歳以上無料 ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。中学生以下、65歳以上、および障害者(付添者は原則1名まで)の方は無料です。それぞれ入館の際、生徒手帳、健康保険証、運転免許証、障害者手帳等をご提示ください。本展の観覧料で、当日に限り、「所蔵作品展 近代日本の美術」もご覧いただくことができます。 8月6日(日) 第一日曜日9月3日(日) 第一日曜日10月1日(日) 第一日曜日 「モダン・パラダイス展」は無料にはなりません。 東京国立近代美術館
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崩壊感覚
展覧会について 展覧会の構成と見どころ 観る者の郷愁を誘う古代遺跡、戦争や災害による破局の光景、時間の経過とともに風化し、朽ちていく物質の姿、そして自己の境界が溶け出すような感覚に怯える人間の有り様。これら「崩壊するもの」のイメージは、20世紀以降の美術の底に絶えず流れていたといえます。 言うまでもなく、その背景には「戦争の世紀」と呼ばれる20世紀に、人類が引き起した幾多の災厄があります。その夥しい瓦礫の山は、もはや失われた過去を夢想させるロマンチックな「廃墟」ではありえません。それはトラウマのように常に現在形で私たちの生を呪縛してくるのです。また80年代、バブル経済の繁栄に酔いしれていた日本に起こった「廃墟ブーム」もこの文脈で考察すべき現象でしょう。大規模な再開発によって次々と古い建物が解体されていったこの時期、都市に出現した束の間の建築の死が、世紀末の終末論的ヴィジョンと重ね合わせられて、妖しい魅力を放っていました。 これだけの例をみても、いかに「崩壊するもの」のイメージが時代や社会と密接に関連していたかがわかるでしょう。この展覧会では、約20名の作家による様々な「崩壊感覚」を集め、それらの多様な意味の広がりを、過去・現在・未来の時間の相と照らし合わせながら検討していきます。 展覧会構成 解体する世界像 「戦争の世紀」20世紀を覆う不穏な空気の中で、時代の変化を鋭敏に察する美術家は、人間を中心とする統一された世界像が瓦解したことを見抜いていました。「破壊」や「断片」のイメージがむしろリアリティーを獲得するのです。 自然と人工物の拮抗 石造りの建築が長い年月を経て風化した廃墟と異なり、日常眼にすることのできる些細なものが崩れていく過程。そこに必ずしもはかなさの美を読み取る必要はないでしょう。むしろ自然と人工物との果てしのない攻防に注目。 溶けだす自己 私たちを襲う「自分がなくなってしまう」という感覚。それは、死に対する意識のみならず、他者との関係において成り立つ「自己」の境界の曖昧さをも示しているのでしょう。 記憶装置としての建築 打ち棄てられた建築の壁や床に染み込んだ、かつての住人の気配。瀕死の建築の荒れ果てた室内は、生々しい人間の情念が依然としてそこに息づいていることを気づかせてくれます。 カタロストロフィとの遭遇 関東大震災と阪神大震災。天変地異による近代都市の崩壊を目の当たりにした表現者がとった行動は。日本画家池田遥邨のデッサンと宮本隆司の写真を比較。 イベント情報 アーティスト・トーク 第12回アーティスト・トークは、宮本隆司さん(写真家) 2007年8月24日(金) 18:30-19:30 2F ギャラリー4(参加無料(要観覧料)、申込不要) ギャラリー内で作品を前に、作者自身にお話をうかがう好評企画「アーティスト・トーク」。12回目となる8月24日(金)は、写真家宮本隆司(みやもと りゅうじ)さんをお迎えします。「崩壊感覚」展出品の「神戸1995」シリーズの作品を前に、作者自身に創作の秘密について語っていただきます。 夕刻からの開催になりますので、みなさまぜひ竹橋までお越しください。 キュレーター・トーク 2007年8月26日(日)11:00-12:002007年10月5日(金)18:00-19:00 ギャラリー4 鈴木勝雄(当館主任研究員) カタログ情報 開催概要 東京国立近代美術館 ギャラリー4 2007年8月18日(土)~10月21日(日) 8月20日(月)、8月27日(月)、9月3日(月)、9月10日(月)、9月25日(火)、10月1日(月)、10月15日(月) 一般420(210)円、大学生130(70)円、高校生70(40)円中学生以下・65歳以上・障害者手帳をお持ちの方と付添者1名は無料。 それぞれ入館の際、学生証、健康保険証、運転免許証、障害者手帳などをご提示ください。( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。本展のチケットで、当日に限り、所蔵作品展「近代日本の美術」もご覧いただくことができます。お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。 9月2日(日)、10月7日(日)*「崩壊感覚」展、所蔵作品展「近代日本の美術」のみ。「平山郁夫 祈りの旅路」展(9月4日~10月21日)は観覧料が必要です。 東京国立近代美術館
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水浴考
展覧会について 陽光の降りそそぐ牧歌的な自然の中で水浴を楽しむ健康的な肉体。あるいは閉ざされた室内で、浴槽に身を浸すプライベートな情景。川や湖や海浜といった屋外の水辺であれ、家の中の浴室であれ、水浴する人物を表現した美術は多数存在します。水浴図は、ヨーロッパ美術においては、ギリシア神話や聖書の物語に由来する伝統的な主題のひとつでもありました。それは、水浴する場面を見られる女性の裸体を描き出すことを定型としつつも、19世紀以降の近代社会の推移や美術の展開とともに、その意味を変化させていきます。 からだと水が触れ合うことから紡ぎ出される物語。そこには裸身に対する官能的な欲望のみならず、人間と自然との関係や、生と死につながる根源的な主題が潜んでいるのではないでしょうか。この展覧会では、現代美術にまで視野を広げ、当館所蔵の51点の作品を通して、水浴図の豊かなバリエーションと今日的な意義を捉え直すことを試みます。 イベント情報 キュレーター・トーク 2010年2月28日(日)11:00-12:002010年4月2日(金)18:00-19:00 2F ギャラリー4 鈴木勝雄(本展企画者・主任研究員) アーティスト・トーク 本展出品作家である楢橋朝子さんのアーティスト・トークを開催します。 2010年2月26日(金) 18:30-19:30 2F ギャラリー4参加無料、要観覧券、申込不要 展示室内で自作を前に、作家自身の言葉を聴くアーティスト・トーク。今回は、写真家楢橋朝子(ならはし あさこ)さんをお迎えします。 日常的な光景にひそむ不気味さ、あやふやさ、奇妙さといったものを、独特の視線で浮かび上がらせるスナップショットの連作で知られた写真家が、2001年からとりくみはじめた、水面に漂う視点から世界にまなざしをなげかける連作、〈half awake and half asleep in the water〉。ギャラリー4で開催の小企画「水浴考」に出品される同シリーズからの5点を中心に、これまでの作品や制作の背景などについてお話をうかがいます。 金曜の夕刻、皆様のご参加をお待ちしております。 楢橋朝子氏略歴 1989年早稲田大学第二文学部美術専攻卒業。1990年フォトギャラリー・03FOTOSをオープン。同ギャラリーでの17回の連続展を中心に発表された連作〈NU・E〉(同題の写真集、1997年蒼穹社刊)などが評価され、1998年日本写真協会賞新人賞を受賞。1996年には石内都と写真誌『main〈マン〉』を創刊(2000年10号で終刊)。2003年の写真集『フニクリフニクラ』(蒼穹社)により、2004年「写真の会」賞を受賞。2007年写真集『half awake and half asleep in the water』(Nazraeli Press)を上梓。2008年「第24回東川賞国内作家賞」受賞。国内外での個展のほか、当館「写真の現在-距離の不在」(1998年)など、多くのグループ展に参加。 カタログ情報 開催概要 東京国立近代美術館本館 ギャラリー4(2F) 2010年2月20日(土)~4月11日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日、ただし3月22日(月・祝)、3月29日(月)は開館、3月23日(火)は休館 一般 420円(210円)大学生130円(70円) 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。本展の観覧料で、当日に限り、所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 3月7日(日)、4月4日(日) 東京国立近代美術館
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生誕120年 小野竹喬展
展覧会について 小野竹喬(おの ちっきょう 1889-1979)は、1918(大正7)年に京都で設立された国画創作協会のメンバーの一人として、日本画の新しい表現を模索したことで知られます。他方、後年には、温雅な色彩と簡潔なかたちを特徴とする画風を打ち立て、「風景の中にある香りのようなもの」(画家のことば)を画面にとらえようと、さりげない自然の表情に眼を向け続けました。本展覧会は竹喬の生誕120年を記念し、初公開作品11点を含む本制作119点とスケッチ52点により、およそ75年にわたる創作活動を回顧するものです。本展では“色”に重きをおく作画へと転じた1939(昭和14)年頃を大きな転換期とみなし、それを境に竹喬の作品を2章に分けて紹介します。また、各章にそれぞれ「竹喬の渡欧」、「奥の細道句抄絵」と題した特集展示を設け、竹喬の生涯と作品に迫ります。 会期中、一部の作品を展示替します。前期:3月2日-3月22日後期:3月24日-4月11日 ここが見どころ 10年ぶりの大回顧展 1999年におこなわれた生誕110年・没後20年記念展以来、10年ぶりとなる大回顧展です。記念展にふさわしく、本画119点、スケッチ52点の出品は過去最大。 11点の新出作品 この10年の間に確認された作品もありました。本展では11点の新出作品を紹介します。 《奥の細道句抄絵》10点すべてが一堂に 晩年の代表作《奥の細道句抄絵》(1976年 京都国立近代美術館蔵)10点すべてがずらりと並びます。これもやはり東京では10年ぶり。さらに参考資料として、この10点に付属する竹喬直筆の短冊を紹介します。東京会場のみの特別出品です。 解説を多くつけました 作家と作品についてより詳しく、深く知りたい人に向けて、解説の多いカタログを作りました。章解説2本、特集展示解説2本、作品解説39本、コラム9本、テキスト3本。参考資料も満載です。 音声ガイドは竹下景子さん 音声ガイドは女優の竹下景子さんによるやさしい語りです。(有料500円) 展覧会構成 第1章 写実表現と日本画の問題 1903年-1938年竹喬は1903年に京都の竹内栖鳳に入門しました。西洋近代絵画の写実表現をとりいれた栖鳳の制作に学びながら、自らも西洋絵画のエッセンスを貪欲にとりこんでゆきました。この時期、竹喬をとらえたのは<写実>でした。それは技法だけの問題ではなく、いかに自然の真実をつかむかという問題でもあったため、竹喬は東洋の南画や、竹喬と同時代の画家たちの作品にも学びながら、画風を変化させてゆきます。1918年、竹喬は土田麦僊らとともに国画創作協会を立ち上げます。しかし、やがて日本画材で写実を追及することに困難を覚えるようになります。1921年からの約1年のヨーロッパ旅行をはさみ、竹喬は東洋絵画における線の表現を再認識することになり、線描と淡彩による南画風の表現に到達します。 特集展示Ⅰ 竹喬の渡欧 竹喬は国画創作協会の仲間である土田麦僊、野長瀬晩花、そして洋画家の黒田重太郎とともに、1921年にヨーロッパへと出発しました。日本画家がヨーロッパで学びたかったものとは何だったのでしょう。この特集展示では、黒田の「芸術巡礼紀行」連載の挿図のために、竹喬と麦僊が描いたスケッチを紹介します。 第2章 自然と私との素直な対話 1939年-1979年1939年頃から竹喬の画風には変化が現れます。新しい画風は、色の面によって対象を把握し、かつ日本画の素材を素直に活かそうとするものでした。この時期、竹喬は大和絵の表現を手本とし、線も色も古い大和絵に学ぼうとしたのです。この転換はその後の竹喬作品の方向性を決定づけました。それ以降、竹喬はおおらかで単純な形と温雅な色彩を特徴とする表現を深めます。そして「風景の中にある香りのようなもの」をとらえようと無心の境地で自然と向き合うことで、ゆるぎない独自の世界を確立してゆきます。 特集展示Ⅱ 奥の細道句抄絵 10点からなる《奥の細道句抄絵》は竹喬晩年の代表作です。竹喬はこの作品で、江戸時代の俳人、松尾芭蕉の『おくのほそ道』をもとに、その句意を絵にしようと試みました。この特集展示では、この連作を制作するために竹喬がおこなったスケッチや下図など10点を、《奥の細道句抄絵》全10点とともに紹介します。 作家紹介 1889年 11月20日、現在の岡山県笠岡市に生れる。1903年 京都に出て竹内栖鳳に入門。1909年 京都市立絵画専門学校が設立され、別科に入学。1916年 文展で特選受賞。1918年 土田麦僊、野長瀬晩花、村上華岳、榊原紫峰と国画創作協会を設立。1921年 黒田重太郎、土田麦僊、野長瀬晩花とともに渡欧。翌年帰国。1928年 国画創作協会展解散。翌年、帝展に復帰。1947年 京都市立美術専門学校の教授となる。1950年 京都市立美術専門学校が京都市立美術大学にかわり、53年まで教授をつとめる。1958年 社団法人日展の常務理事となる。1968年 文化功労者の表彰を受ける。1969年 京都市美術館で「小野竹喬回顧展」開催。1976年 朝日新聞社主催「小野竹喬 奥の細道句抄絵展」開催。11月、文化勲章受章。1979年 5月10日、逝去。 イベント情報 ギャラリー・トーク 2010年3月6日(土)15:00-16:002010年3月12日(金)18:00-19:002010年3月19日(金)18:00-19:00 企画展ギャラリー(1F) 鶴見香織(当館主任研究員) 申込不要、参加無料(要観覧券) 小野竹喬展開催記念 俳句コンテスト 自ら俳句に親しみ、松尾芭蕉の「おくのほそ道」を絵にした小野竹喬にちなんだ俳句イベントです。 たくさんのご応募をありがとうございました。黛まどか氏、石寒太氏による選考を経て、最優秀作品を含む約20句を小野竹喬展会場内に掲示します。3月20日(土)~4月11日(日)を予定しています。 3月2日(火)~3月7日(日) 企画展ギャラリー(1F) 黛まどか(俳人)、石寒太(「炎環」主宰、「俳句αあるふぁ」編集長) 俳句コンテスト記念トーク 俳句コンテストを記念した、選者によるトークイベントです。トークの終わりに、俳句コンテストの講評をおこないます。 3月22日(月・振休) 14:00-15:30 講堂(B1F) 黛まどか(俳人)、石寒太(「炎環」主宰、「俳句αあるふぁ」編集長) 130名(要申込・聴講無料) 郵便往復はがきの「往信用裏面」に郵便番号・住所・氏名(ふりがな)・電話番号を、「返信用表面」に郵便番号・住所・氏名を明記の上、下記広報事務局までお申し込みください 3月8日(月)【消印有効】 ※一枚のはがきで2名まで申込可。2名の場合は「往信用裏面」にもう1名の氏名もご記入ください。※応募多数の場合は、抽選のうえ聴講券をお送りします。 〒102-0083 東京都千代田区麹町3-7「小野竹喬展」広報事務局(ピーアールコンビナート内)「俳句コンテスト記念トーク」係電話:03-3263-5637 こども鑑賞プログラム 絵から感じる五七五 閉館後の美術館で竹喬作品をじっくり鑑賞。好きな絵を見つけて、自分のイメージを五七五に思いのままに表します。 3月29日(月) 16:30-18:15 小学校3~6年生 32名(要事前申込、抽選) 無料(ただし高校生以上の付添の方は観覧券が必要です) 郵便往復はがきの「往信用裏面」に郵便番号・住所・氏名(ふりがな)・学年・電話番号を、「返信用表面」に郵便番号・住所・氏名を明記の上、下記広報事務局までお申し込みください。 3月8日(月)【消印有効】 ※一枚のはがきで2名まで申込可。2名の場合は「往信用裏面」にもう1名の氏名・学年もご記入ください。※応募多数の場合は、抽選のうえ参加券をお送りします。 〒102-0083 東京都千代田区麹町3-7「小野竹喬展」広報事務局(ピーアールコンビナート内)「こども鑑賞プログラム」係電話:03-3263-5637 関連企画 教職員鑑賞プログラム「小野竹喬展」先生のための鑑賞講座(講演+展覧会観覧) *学校教職員が対象のプログラムです 2010年3月5日(金) (講演)18:00-19:00/(展覧会観覧)16:00-20:00 カタログ情報 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー 2010年3月2日(火)~4月11日(日)会期中、一部の作品を展示替します。前期:3月2日-3月22日後期:3月24日-4月11日 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)※入館は閉館30分前まで 月曜日[2010年3月22日と3月29日は開館]、3月23日(火) 一般 1300円(1100/900円) 大学生900円(800/600円) 高校生400円(300/200円)※( )内は前売/20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。※それぞれ入館の際、学生証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。※本展の観覧料で、当日に限り「水浴考」(ギャラリー4、2F)、所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)、工芸館所蔵作品展「近代工芸の名品―花」(工芸館)もご観覧いただけます。※お得な前売券は12月1日から3月1日まで発売。 東京国立近代美術館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション 日本写真印刷、毎日ビルディング 大阪市立美術館 2009年11月3日~12月20日笠岡市立竹喬美術館 2010年1月3日~2月14日
