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没後40年 熊谷守一 生きるよろこび
熊谷守一(くまがい・もりかず 1880‐1977)は、明るい色彩とはっきりしたかたちを特徴とする作風で広く知られます。特に、花や虫、鳥など身近な生きものを描く晩年の作品は、世代を超えて多くの人に愛されています。 その作品は一見ユーモラスで、何の苦もなく描かれたように思えます。しかし、70年以上に及ぶ制作活動をたどると、暗闇でのものの見え方を探ったり、同じ図柄を何度も使うための手順を編み出したりと、実にさまざまな探究を行っていたことがわかります。描かれた花や鳥が生き生きと見えるのも、色やかたちの高度な工夫があってのことです。穏やかな作品の背後には、科学者にも似た観察眼と、考え抜かれた制作手法とが隠されているのです。 東京で久々となるこの回顧展では、200点以上の作品に加え、スケッチや日記などもご紹介し、画家の創造の秘密に迫ります。 明治から昭和におよぶ97年の長い人生には、貧困や家族の死などさまざまなことがありました。しかし熊谷はひたすらに描き、95歳にしてなお「いつまでも生きていたい」と語りました。その驚くべき作品世界に、この冬、どうぞ触れてみて下さい。 クマガイ モリカズってどんな人? 1880(明治13)年 ~ 1977(昭和52)年 岐阜県恵那(えな)郡付知(つけち)村に生まれる。1897(明治30)年上京。1900(明治33)年、東京美術学校西洋画科撰科に入学し、黒田清輝、藤島武二らの指導を受ける。同期に青木繁、和田三造らがいる。1904(明治37)年に同校を卒業。1909(明治42)年には《蝋燭(ローソク)》により第3回文展で褒状を受ける。翌年一時帰郷、1915(大正4)年に再上京するまで、材木運搬などの仕事につく。 上京後は二科会で発表を続け、二科技塾の講師も務める。1922(大正11)年、大江秀子と結婚。1928(昭和3)年に次男・陽を、32(昭和7)年に三女・茜を、47(昭和22)年に長女・萬(まん)を失くすなど、戦争をはさんで次々と家族の死に見舞われる。戦後は明るい色彩と単純化されたかたちを特徴とする画風を確立。97歳で没するまで制作を行った。 住まいの跡地は現在二女、熊谷榧(かや)氏を館長とする「豊島区立熊谷守一美術館」となっている。 講演会 ■藏屋美香(当館企画課長、本展企画者)2017年12月16日(土)14:00‐15:30聴講無料(先着150名)、申込不要 ■岡﨑乾二郎(造形作家、批評家)「モリカズについて、いま語れることの全て」2018年1月13日(土)14:00‐15:30聴講無料(先着150名)、申込不要 ■高畑勲(アニメーション映画監督)聞き手:藏屋美香(当館企画課長、本展企画者)2018年2月24日(土)14:00‐15:30当日10:00より1F受付にて整理券を配布(先着150名)、聴講無料、要観覧券 場所:講堂(地下1階)*開場は開演30分前 カタログ 開催概要 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー 2017年12月1日(金)~2018年3月21日(水・祝) 10:00-17:00 (金曜・土曜は10:00-20:00)*入館は閉館30分前まで 月曜(1/8、2/12は開館)、年末年始(12/28-1/1)、1/9(火)、2/13(火) 【当日券】一般 1,400(1,000)円大学生・専門学校生 900(600)円高校生 400(200)円 【前売券】一般 1,200円ペアチケット 2枚で2,000円大学生・専門学校生 800円高校生 300円 いずれも消費税込。( )内は20名以上の団体料金。前売券・ペアチケットは2017年10月2日(月)~2017年11月30日(木)販売。ペアチケットはオンラインのみ。中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。 本展の観覧料で入館当日に限り、同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション」もご覧いただけます。 主なチケット販売場所:東京国立近代美術館・工芸館(*開館日のみ、工芸館は当日券のみ)、本展特設サイト(オンラインチケット)、イープラス、チケットぴあ、ローソンチケット、セブンチケットほかチケット購入時に手数料がかかる場合があります。 東京国立近代美術館日本経済新聞社テレビ東京 愛媛県美術館 2018年4月14日(土)〜6月17日(日)
トーマス・ルフ展
見どころ 本展はその世界が注目する写真家の,初期から初公開の最新作までを紹介する展覧会です。ルフは初期に発表した高さ約2メートルにもなる巨大なポートレート作品で注目されました。それ以降,建築,都市風景,ヌード,天体などさまざまなテーマの作品を展開,それらを通じ,現代人をとりまく世界のあり方についてのユニークなヴィジョンを提示してきました。 私たちの視覚や認識に深く組みこまれた写真というメディアそれ自体も,ルフ作品の重要なテーマのひとつです。ルフは自ら撮影したイメージだけでなく,インターネット上を流通するデジタル画像からコレクションしている古写真まで,あらゆる写真イメージを素材に用い,新たな写真表現の可能性を探究しています。作品選択や展示構成にルフ自身が参加するなど,作家の全面的な協力を得て実現する今回の展覧会では,未発表の新作を含む作品世界の全貌を紹介します。 トーマス・ルフ展のみどころ ■日本では初めての本格的回顧展ルフ作品は1990年代から日本の美術館やギャラリーで紹介されてきましたが,美術館で開催される本格的な回顧展は今回が初となります。待望されていた日本国内での個展が,ついに実現します。 ■初期から最新作まで,主要シリーズで作品世界を紹介本展は初期作品である「Interieurs」や評価を高めた「Porträts」,少年時代からの宇宙への関心を背景とする「cassini」や「ma.r.s.」,インターネット時代の視覚・情報空間を問う「nudes」や「jpeg」など,全18シリーズ,東京会場は約125点の作品で構成されます。 ■最新作「press++」シリーズでは,本展が世界初公開となる作品もある新聞社のプレス写真アーカイヴを入手したことから着想された「press++」。かつてのメディア空間で使用されていた紙焼写真とそれにともなう文字情報を素材に生まれた最新作です。本展では読売新聞社から提供されたプレス写真を素材とした世界初公開となる作品も発表されます。 ■会場はすべて撮影可能ですアーティストの許可により、会場はすべて撮影可能です。 出品される主なシリーズの紹介 Porträts一 見ありふれた証明写真のようにも見えるポートレート。しかし巨大なサイズ(210×165cm)に引伸ばされた作品の前に立つと,そうした印象は一変しま す。ありふれた人物写真が,どこか不可解で不可思議な存在にすら見えてくるとすれば,そこには写真というメディア独自のメカニズムが働いているのではない でしょうか。ルフの評価を高めた初期作品は,シンプルな手法でさまざまな問題を提起します。巨大なカラープリントという現代写真のフォーマットの先駆と なったシリーズでもあります。 l.m.v.d.r.「l.m.v.d.r.」 とは,モダニズム建築を代表するドイツ出身の建築家ルードヴィッヒ・ミース・ファン・デル・ローエの頭文字。ルフはある美術館からミースの建築の撮影を依 頼され,さらにミースのある時期の全建築作品を撮影するプロジェクトをてがけます。その過程で,ルフはすでに撮影されたミース建築の写真を徹底的に研究 し,そのうえで自ら撮影し,あるいは既存の写真を収集し,さらにはそれらのイメージをデジタル処理することで,この近代建築の巨匠についての視覚的な探求 を試みました。 cassiniル フは少年時代から一貫して宇宙への関心を抱き続けています。2008年に発表された「cassini」はNASA(アメリカ航空宇宙局)などが1997年 に打ち上げた宇宙探査船cassiniが撮影した土星とその衛星の画像を素材にした作品。ときに抽象的,幾何学的なデザインのようにも見える天体のイメー ジは,インターネット上で公開されている画像の色彩やトーンを操作することで生み出されたものです。 ma.r.s.「ma.r.s.」 もまたNASAの探査船が撮影した画像を素材とする作品です。2006年以来火星を周回する探査船のカメラは,火星の表面のさまざまな情報を地球に送り続 けています。ルフはその画像情報の角度や色彩をデジタル処理で加工することで,このはるか彼方で火星を見つづけるレンズを通じた「風景写真」の可能性を探 ります。 photogramこのシリーズのタイトルとなっている「フォトグラム」とは,1920年代後半にモホイ=ナジ・ラースローらによって開発された写真技法のひとつで,カメラを用いず感光紙上に物体を置いて直接露光し,その影や透過する光をかたちとして定着させる技法です。ルフは2012年よりこの技法を用いた作品制作に取り組みはじめました。従来のフォトグラムではやり直しがきかず,モノクロームの表現に限定されるのに対して,かねてより作品制作にデジタル技術によるマニピュレーションを導入していたルフは,コンピューター上のヴァーチャルな「暗室」で物体の配置と彩色を自在に操作し像をつくりあげています。 Substrateインターネット上に溢れる,もはや計測することすら不可能な量の画像は,何らかの現実を表象しうるのでしょうか。それとも単にRGB3色の画素の組み合わせがつくる視覚的な刺激にすぎないと言えるのでしょうか。ルフはネット上に氾濫する匿名のポルノグラフィに着目し,「nudes」シリーズの制作をはじめましたが,このシリーズではさらに「イメージ」の解体へと踏み込んでいます。日本の漫画やアニメから取り込んだ画像に原形がわからなくなるまでデジタル加工を繰り返し,画像から意味や情報を剥ぎとっています。 jpeg「nudes」 や「Substrate」シリーズと並んで,デジタル画像の解体が主題となっていますが,このシリーズではそうしたデジタル画像がもっている「構造」への 関心が加わっています。シリーズ名のjpegとはデジタル画像の圧縮方式のひとつで,現在,全世界で使用されもっとも標準的なフォーマットの名称です。圧縮率を高めすぎるとブロックノイズが発生し,画面がモザイク状になってしまうという,この画像フォーマットの特性を用いて,画像の構造そのものを視覚化しています。 zycles2008 年より制作がはじめられたこのシリーズでは,ルフの関心は数学や物理学へと拡がっています。イギリスの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェル (1831-1879)の著した電磁気学の研究書の中に収められていた銅版画による電磁場の図版に触発されたルフは,さまざま数式がつくる線形を3Dプロ グラムによって再現し,コンピューター上の3次元空間で再構成しました。ルフによって平面作品へと変換された,こうした曲線の複雑な組み合わせは,惑星の軌道のようにも,あるいは抽象的なドローイングのようにも見えます。 イベント 講演会 ■塚本由晴(建築家、アトリエ・ワン代表)2016年10月2日(日)14:00-15:30 ■ホンマタカシ(写真家)2016年10月8日(土)14:00-15:30 場所:講堂(地下1階)*開場は開演30分前、聴講無料(先着140名)、申込不要 ギャラリートーク ■増田玲(東京国立近代美術館主任研究員・本展企画者)2016年9月9日(金)18:00-19:002016年10月22日(土)14:00-15:00 場所:1階企画展ギャラリー*参加無料(要観覧券)、申込不要 Music Dialogue ■Music Dialogue「主題と変奏─トーマス・ルフ展によせて」2016年9月11日(日)13:00-15:15 世界的ヴィオラ奏者で指揮者の大山平一郎さんらによる室内楽の演奏と解説、客席との「対話」で構成する音楽&トークイベントです。 場所:講堂(地下1階)*開場は開演30分前、有料(一般4,000円、学生2,000円)、要事前申込(webのみ)*主催:一般社団法人Music Dialogue *外部ページ*お申込み、お問い合わせはMusic Dialogueまでお願いします。 トーマス・ルフ展スペシャルディナー ■レストラン ラー・エ・ミクニが「トーマス・ルフ展」スペシャルディナーをご用意2016年8月30日(火)~11月13日(日) 美術館に併設するレストラン ラー・エ・ミクニは、三國清三シェフがプロデュースするフレンチとイタリアンの融合をアートする本格レストランです。トーマス・ルフ展にあわせて、展覧会特別企画のスペシャルディナーをご用意します。 *価格:おひとり様5,000円(税・サ別) 特別価格のため、現金でのお支払いをお願いします。*コース内容:アミューズ、前菜、パスタ、魚料理、肉料理、季節のデザート、小菓子、カフェ、乾杯のシャンパン付(注:画像は一例です)*時間:17:30~21:00 のうち、お席のご利用が2時間制*1日限定10組様のスペシャルプラン!前日11:00までに直接お電話にてご予約下さい。(ホームページからはご予約いただけません)火曜日のご予約は前々日まで。 TEL:03-3213-0392 *展覧会特典:展覧会の観覧券を持参いただいた方には、来年春の桜の季節のお席を誰よりも早くご予約いただける優先権を差し上げます。皇居をバックにした窓一面の桜は格別なことから、例年予約で満席になるため、予めご連絡先を頂戴し、一般の予約開始前にレストランからご案内をお送りします。 カタログ 開催概要 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー 2016年8月30日(火)~2016年11月13日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)*入館は閉館30分前まで 月曜日(9月19日、10月10日は開館)、9月20日(火)、10月11日(火) 当日(前売/団体)一般 1,600(1,400/1,300)円大学生 1,200(1,000/900)円高校生 800(600/500)円 ( )内は、前売/20名以上の団体料金。いずれも消費税込。前売券は2016年6月4日(土)~2016年8月29日(月)販売。中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。キャンパスメンバーズ加入校の学生は、学生証の提示で割引料金900円でご鑑賞いただけます。本展の観覧料で入館当日に限り、同時開催の「MOMATコレクション」(4F-2F)、「奈良美智がえらぶ MOMAT コレクション:近代風景 ~人と景色、そのまにまに~」(2Fギャラリー4)もご覧いただけます。 *この展覧会は下記の条件で写真撮影ができます。・フラッシュ、三脚、自撮棒は使用できません。・他の来館者の鑑賞を妨げないようご注意ください。・作品の接写はできません。・動画の撮影はできません。 撮影された写真の利用に関して・私的な利用に限ります。営利目的ではご利用になれません。・画像に変更を加えることはできません。・ブログやSNS、写真共有サービス等で使用する場合は、下記の情報をあわせて掲出してください。 作家名、作品名、「トーマス・ルフ展」、東京国立近代美術館 ・ブログやSNS、写真共有サービス等で他の来館者が写った写真を公表する場合、写っている方の肖像権に触れる場合があります。ご注意ください。・ブログやSNS、写真共有サービス等での利用は、利用者の責任においてお願いします。美術館は一切の責任を負いません。 *主なチケット販売場所:東京国立近代美術館(*開館日のみ)、チケットぴあ(Pコード:767-685)、ローソンチケット、イープラス、セブンチケット、JTB店舗ほか*手数料がかかる場合があります。 ■ルフ展 × ダリ展 セット券前売り券:2,600円販売期間:2016年8月29日(月)まで*ダリ展(9月14日~12月12日、国立新美術館)の前売券がセットになって、ルフ展とダリ展の2つの展覧会を特別価格でご鑑賞いただける前売券です。消費税込。*販売場所:チケットぴあのみで販売(Pコード:767-689)*手数料がかかる場合があります。 ■特大PRポスター付きチケット料金:3,000円販売期間:売り切れ次第終了(限定1,000枚)*特大PRポスターが付いた前売券を、1000枚限定で販売します。展覧会に出品されるポートレート作品をデザインした特大の縦長ポスター(縦177cm×横125cm)です。ポスターはチケット発券後、16分の1サイズに折った状態で特製封筒にお入れして別途お送りいたします。消費税・ポスター配送料込*販売場所:チケットぴあのみで販売(Pコード:767-700)*手数料がかかる場合があります。 ■Tシャツ付きチケット料金:4,800円販売期間:売り切れ次第終了(S・M・Lサイズ 各100枚限定)*展覧会に出品される作品をプリントしたTシャツ付き前売券です。消費税込*販売場所:チケットぴあのみで販売(Pコード:767-801)*手数料がかかる場合があります。*Tシャツは、会期中トーマス・ルフ展特設ショップにてチケットと一緒に発券される引換券とのお引き換えとなります。 東京国立近代美術館、読売新聞社、ぴあ、WOWOW J-WAVE Lufthansa Cargo AG、全日本空輸(株) 金沢21世紀美術館2016年12月10日(土)~2017年3月12日(日)
瑛九1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす
見どころ 瑛九(えいきゅう) とは何者か? 瑛九(えいきゅう、本名:杉田秀夫、1911-1960)は1936年にフォト・デッサン集『眠りの理由』で鮮烈なデビューを飾り、その後さまざまな技法を駆使しながら独自のイメージを探求した芸術家です。 当館は近年、彼の評伝を著した友人の画家、山田光春の旧蔵していた作品と資料を収蔵しました。本展は、その中から約50点の初公開作品、書簡などの関連資料に加え、以前から所蔵している作品もまじえて、「レアル(リアル)」を求めて苦闘するデビュー前後の瑛九の実像を紹介します。 《作品》1937年頃 コラージュ デビュー前後の3年間に焦点 25歳でフォト・デッサン集『眠りの理由』で鮮烈なデビューを飾り、その後もさまざまな技法を駆使しながら独自のイメージを探求した瑛九。 本展は20代半ばの3年間に焦点をあて、「レアル」を求めて苦闘する若き瑛九の実像に迫ります。 若き芸術家の苦悩を、作品と手紙でたどる タイトルの「1935-1937」は瑛九が24~26歳だった、デビュー前後の3年間をさします。 近年新たに収蔵したフォト・デッサンやコラージュ など当時の作品約50点と、友人への手紙を中心とした多様な資料を初公開し、若き芸術家の苦悩と葛藤を、作品とたたきつけるような言葉の両面から追体験いただきます。 また、日本の前衛美術が活況を呈した時代に書かれた瑛九の手紙は、戦前の前衛アートシーンを語るドキュメント資料としても貴重なものです。今回その約60通をカタログに翻刻掲載という形で一挙公開します。 ミニ回顧展としての魅力も さらにエッチングやリトグラフなど戦後の版画作品、油彩による晩年の点描作品など10点も展示。計60数点のミニ回顧展として、知る人ぞ知る瑛九の全体像に触れる絶好の機会です。 戦前、戦後の日本の前衛美術のなかで、岡本太郎などとともに重要なアーティストのひとりである瑛九。その真摯な制作姿勢が、当時まだ若かった細江英公(写真家)、池田満寿夫(版画家)、河原温(現代美術家)などに多大な影響を与えた功績も見逃せません。 瑛九は、理性の光がとどかない心の闇の中で手探りするかのように、彼にとってのほんとうの「レアル」を追い求めました。ヴァーチャルなものや、わかりやすい言葉などがあふれるいま、瑛九をとおして「レアル」なものに対する感覚を研ぎ澄ませてみませんか。 左・右 : 『眠りの理由』より 1936年 ゼラチン・シルバー・プリント 会場構成 本展は4部構成で年代順に展示し、特定のスタイルに収まろうとしない瑛九のあくなき表現への探究と変化を追います。 《二人》1935年 油彩・厚紙 『眠りの理由』より 1936年 ゼラチン・シルバー・プリント 《作品》1937年頃 コラージュ 第1章 1935年(24歳)…「瑛九」以前の杉田秀夫 瑛九が本名の「杉田秀夫」で活動していた最後の年が、1935年です。そのちょうど10年前の1925年、瑛九は14歳で生まれ故郷の宮崎から上京します。以来、東京と宮崎を行き来しながら、美術批評、写真、油絵と模索を続けました。 1935年は美術展に初入選し、前年宮崎で出会った山田光春と仲間を集って、作品発表などの活動を行っていた時期にあたります。ここでは油彩による作品とともに、自らの表現を模索する苦悩を伝える手紙を紹介します。 第 2 章 1936年(25歳)… 杉田秀夫が「瑛九」となるとき―『眠りの理由』前後 1936年は転機の年です。切り抜いたデッサンや、さまざまなものを印画紙の上にのせて感光させた作品が評論家などに認められ、その独自の技法を「フォト・デッサン」と名づけ、「瑛九」という新しい名で鮮烈なデビューをはたしました。 第2章ではデビュー作にして代表作のひとつ、フォト・デッサン10枚入り、限定40部で刊行された『眠りの理由』を中心に紹介します。今回展示するのは、限定40部の番外として山田光春が大切に保管していた、表紙つきの貴重な完全揃いです。 第 3 章 1937年(26歳)… ほんとうの「レアル」をもとめて― 第 1 回自由美術家協会展への出品前後 瑛九がフォト・デッサンで表したかったのは、機械文明の発達につれて変容しつつある人々の現実の捉え方、つまり新しいリアリティの探求でした。しかし、技法の珍しさやヨーロッパの前衛美術との影響関係ばかりを指摘され、瑛九は批評家への不信をつのらせていきます。そして翌1937年の第1 回自由美術家協会展に彼が出品したのは、フォト・デッサンではなく「レアル」と題したコラージュの作品でした。 第3章ではこの出品作に加えて、関連作品10 点を初公開し、闇の中にうかぶ奇妙な物体のイメージにあえて「レアル」と名づけた瑛九の真意を探ります。 エピローグ … その後の瑛九と山田光春 その後の瑛九の歩みも、紆余曲折に満ちています。戦時中は東洋文化へ関心を示し、戦後は活動の拠点を移して、埼玉県浦和へ。エッチングやリトグラフなどの版画作品に取り組みます。そして晩年には、油彩による点描で画面全体に光があふれるかのような作品へと至りました。 ここでは当館が以前より所蔵している作品から、こうした瑛九の全体像をダイジェストで紹介します。また、瑛九没後に丹念な調査をもとに詳細な評伝を書きあげた友人、山田光春との関係にも光をあて、瑛九の作品と人生の双方に迫ります。 瑛九から山田光春への手紙 1935年 略年譜 1911(明治44)年 0歳 4月28日、宮崎県の生まれ。本名、杉田秀夫 1925(大正14)年 14歳 上京し日本美術学校で学ぶ(1927年退学)1927(昭和2) 年 16歳 美術雑誌に評論を発表し始める1930(昭和5) 年 19歳 オリエンタル写真学校で写真を学ぶ。以後、東京と宮崎を往復しながら制作1934(昭和9) 年 23歳 山田光春と出会う。この頃からエスペラント語を学ぶ1935(昭和10)年 24歳 中央美術展に初入選。山田光春らと「ふるさと社」結成1936(昭和11)年 25歳 瑛九の名でフォト・デッサン集『眠りの理由』刊行1937(昭和12)年 26歳 自由美術家協会の結成に参加。第 1回展に《レアル》出品1948(昭和23)年 37歳 谷口ミヤ子と結婚1951(昭和26)年 40歳 デモクラート美術家協会を結成する(1957年解散)。また、銅版画(エッチング)の制作を始める1952(昭和27)年 41歳 埼玉県浦和市(現さいたま市)に移転1956(昭和31)年 45歳 石版画(リトグラフ)の制作を始める1957(昭和32)年 46歳 第 1回東京国際版画ビエンナーレ出品1960(昭和35)年 48歳 3月10日、慢性腎炎の闘病中のところ急性心不全で没 没後 1960(昭和35)年 4月28日~6月5日「四人の作家 菱田春草・瑛九・上阪雅人・高村光太郎」(国立近代美術館)が開催される1965(昭和40)年 友人たちにより「瑛九の会」が発足し、機関誌『眠りの理由』が刊行される。同誌に山田光春は瑛九の評伝を連載する1976(昭和51)年 山田光春『瑛九 評伝と作品』(青龍洞)刊行 2012(平成24)年 山田光春旧蔵の瑛九作品、資料が東京国立近代美術館に収蔵される 瑛九ポートレート 1936年 はちきれるゼツボウ感でキャンバスをたたこうゼツボウが出発だ。1935 年 5 月 29 日、瑛九の手紙より カタログ 大谷省吾(当館美術課長・本展企画者)による解説を収録。また、日本の前衛美術が活況を呈した時代に書かれ、戦前の前衛アートシーンを語るドキュメント資料としても貴重な瑛九の手紙、約60通を翻刻掲載しています。 デザイン:三木俊一(文京図案室)定価:1,300円(税込) 目次より 闇の中で「レアル」をさがす― 山田光春旧蔵資料から読み解く1935-1937年の瑛九:大谷省吾 ⅰ 1935「瑛九」以前の杉田秀夫 ⅱ 1936杉田秀夫が「瑛九」となるとき―『眠りの理由』前後 ⅲ 1937ほんとうの「レアル」をもとめて― 第 1 回自由美術家協会展への出品前後 エピローグ その後の瑛九と山田光春 瑛九から山田光春への書簡 1935-1937年 他 イベント 講演会 大谷省吾(当館美術課長・本展企画者)「書簡から読み解く 1935 -1937年の瑛九」 2016 年 12 月17 日(土)14:00-15:302017 年 1 月 7 日(土)14:00-15:30 場所:講堂(地下1階)*開場は開演30分前、申込不要、聴講無料、先着140名 開催概要 東京国立近代美術館 2F ギャラリー4 2016年11月22日(火)~ 2017年2月12日(日) 10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00) 入館は閉館30分前まで 月曜(1/2、1/9は開館)、年末年始(12 /28 - 2017 年1/1)、1/10(火) 一般430(220)円大学生130(70)円 ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。高校生以下および18歳未満、65歳以上、キャンパスメンバーズ、「MOMATパスポート」をお持ちの方、友の会・賛助会会員、MOMAT支援サークルパートナー企業(同伴者1名迄。シルバー会員は本人のみ)、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、会員証、障害者手帳等をご提示ください。本展の観覧料で、入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご観覧いただけます。 12 月4日(日)、1月2日(月)、2月5日(日)*本展および所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)のみ 東京国立近代美術館
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近代風景~人と景色、そのまにまに~奈良美智がえらぶMOMATコレクション
古賀春江《月花》1926年 見どころ 奈良美智とMOMATの意外なコラボ。 奈良の感性を育んだ作品の数々が一堂に 麻生先生にお願いして松本竣介など、すでに他界した仲間たちの人となりを語ってもらう時、僕は子犬のような眼をして真剣に先生の話を聞いていた奈良美智 アーティスト、奈良美智がMOMATのコレクションから作品をセレクトします。 大学時代の恩師、麻生三郎や、麻生とともに戦争の時代を生きた松本竣介。村山槐多のたくましい少女像や、奈良が「手袋とスカーフの色が大事」と語る榎本千花俊の女性像。美術史にとらわれることなく好きな作品を選んだら、自然と1910-50年代の人と景色を描く作品にしぼられたといいます。 おもに「人」を描くアーティストと思われがちな奈良ですが、実は街や野原といった「景色」も「人」と同じぐらい重要なものと考えています。「人」と人の外にある「景色」、ふたつが合わさって「風景」になる、と奈良は語ります。 おなじみの名作からふだんあまり展示されない作品まで、約60点がずらりと並びます。奈良が作家、作品に寄せたコメントもご紹介します。奈良美智の目を通して、作品の新しい魅力に出会いましょう。 奈良美智のドローイングも展示されています 《Harmless Kitty》は4F「ハイライト」コーナーに! 所蔵品ギャラリー4F1室「ハイライト」コーナーには、奈良の人気作品《Harmless Kitty》を展示します! 奈良美智のことばを収めた小冊子を無料でさしあげます 会場内にある奈良美智のことばを収めた小冊子を無料でさしあげています。デザインは青森県立美術館のVIも手がけた菊地敦己さん。会場のみの限定配布です。数に限りがあるのでお早めにどうぞ。 奈良美智(なら・よしとも)とは? 1959年青森県弘前市生まれ。武蔵野美術大学で麻生三郎に学ぶ。愛知県立芸術大学大学院修了後ドイツに渡る。1993年、ドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミーでマイスター・シューラー取得。近年の展覧会に「奈良美智:君や僕にちょっと似ている」(横浜美術館、2012年)、「Life is Only One/ 無常人生」(アジアソサエティ香港、2015年)など。2016年、アジア・アーツ・アワーズ受賞。 奈良美智のことばより 奈良美智のことばを会場パネルより抜粋してご紹介します。 《銀嶺》は戦時中の作品であり、派手さを抑えたモノトーンの画面なのだが、編み込みの手袋とスカーフに置いた色が画面に生命感を与えている。僕はそのようなセンスが好きだ。軍国主義の暗い時代にあって、ひょいと宙返りして見せるような軽やかさと軟らかさが好きだ 彼の絵にある文学の匂いは、10代の前半に病気で聴力を失い、その2年後あたりから絵を描くようになったという彼の心象風景に重なっていて、音も無く静かに澄んだ形で絵画上に充満している 松本竣介《Y市の橋》1943年 裸婦と題しながら胸から上だけを描く、そのこそばゆいような表現も好きなのだが、実は流れるような髪の毛の描写がとても魅力的で、自分の眼には眩しく映る カタログ情報 イベント キュレーター・トーク 奈良さんの企画をサポートしたMOMATのキュレーターが、展示の見どころについてお話します。奈良さんはどうやって作品を選んだのか、展示作業はどんな風に進んだのか、など、裏話もたくさん。 日時: 2016年9月16日(金) 18:30-19:15 担当: 蔵屋美香(企画課長) テーマ:「奈良美智がえらぶMOMATコレクション」について、あれこれ 場 所: 2階ギャラリー4 「奈良美智がえらぶMOMATコレクション 近代風景~人と景色、そのまにまに~」展会場 ※いずれも参加無料(要観覧券)/申込不要 奈良美智 講演会「彼らの何が自分を惹きつけるのか」 今回の企画について、また自らの作品を育んださまざまなものについて、奈良美智がお話します。 7月18日の「そのⅠ」に続き、10月10日の「そのⅡ」はそれをさらに掘り下げる内容となる予定。 もちろんどちらか一方だけの聴講でもOKです。 【講演内容変更のお知らせ】 7月18日の「そのⅠ」を聞けなかった方がたくさんいらっしゃったこと、当初「そのⅡ」に予定していた話題もこの日出たことなどを踏まえ、講演者の奈良さんとも相談の上、7月18日、10月10日の2回とも基本的に同じ内容でお話することとしました。どうぞご理解、ご了承の上ご参加ください。 日時: ① 2016年7月18日(月・祝) 14:00-15:30 【終了】 「彼らの何が自分を惹きつけるのか そのⅠ」 ② 2016年10月10日(月・祝) 14:00-15:30 「彼らの何が自分を惹きつけるのか」(7月18日と同内容) 場所:東京国立近代美術館(本館) 講堂 定員:130名 聴講方法 *各日10:00より1階受付で先着130名様に整理券を配布します。 *開場は開始30分前です。 7月18日「彼らの何が自分を惹きつけるのか そのⅠ」レポート 満員のお客さまを迎えて始まった講演会。 「自分の作品をかたち作ったものは何なのか、それを紹介したい」と述べて、まずは奈良さんのふるさと、子ども時代の青森県弘前のスライドからスタートです。 犬ぞり、馬車、雪解けの泥道、野原、道端で遊ぶ子どもたち…1960年代だけど、都会とは時差があり、まるで戦後すぐみたいな光景を見て育った。昔はこうしたふるさとの「遅れ」が悲しかったけれど、今はこれが自分の感性を育ててくれたと感謝している、と奈良さん。奈良さん自身の子ども時代の貴重な写真も登場。 中盤からは美術のお話に。 武蔵野美術大学から愛知県立芸術大学へ、そしてデュッセルドルフ芸術アカデミーへ。学生時代は、なるべく感情に引きずられず、色やかたちの組立で作品を見ようとしたそうです。 たとえば萬鉄五郎の《裸婦(ほお杖の人)》は、画面四隅の処理がぜんぶ違うことで空間の広がりが生れている。また熊谷守一の《畳の裸婦》は、畳の長辺約180センチに比して女性の身体がとても大きい。でも、畳の四角と人体との画面上の関係を見てこうしたんじゃないかなあ。次々に出る正確な読み解きに感嘆のため息が。でも奈良さんいわく、これは勉強すれば身につくもの。ここから先をどうするかが個々のアーティストに問われます。 武蔵野美術大学時代の恩師、麻生三郎と、麻生さんの仲間で奈良さんが敬愛する画家、松本竣介のお話も。麻生さんの作品《子供》(1945)は、弘前にいたような子どもで肌の感じも匂いもわかる、ウソがない、と感じたそう。松本竣介の《工場付近》(1943)も、街にものが少ないので本質がわかる、たとえば壁など、固いものが固いとちゃんと伝わる、と指摘。両作品はどちらも第二次世界大戦中から終戦直後に描かれたもの。困難な時代の作品に反応するのは、やはり「戦後すぐみたいだった」子ども時代の弘前に通じる要素が多くあるためでしょう。そのへんは、たとえ表面上作風が似ていても、もっと豊かな時代に育った下の世代の人たちとはまったくちがうはずだ、とのことでした。 奈良さんによれば、惰性でやっていると自分を自分でまねした感じになる。だからダメと思ったら作品をつぶし、自分を追いこむ勇気が必要、とのことです。作品の制作過程を記録したスライドでは、ほぼできあがっていた作品を塗りつぶし、まったく違う作品を生み出すようすが紹介されました。最初に丸を描いたり四角を描いたりし、そこから偶然にしたがって描き進めることも多い、出てきて初めてわかることがある、との指摘にも納得です。 また、ある作品を描く際、身の回りに置いていたものを並べて撮影しためずらしい写真も紹介。奈良さんの場合、戦時下の日系人を撮った写真集やボブ・ディランのCDなど、一見画面に直でつながらないようなものがほとんどを占めるとか。こうした例を知ると、せまい領域に閉じこもらず、美術の外に広がる世界からさまざまな刺激を得、それを美術作品に落とし込む、という奈良さんの制作態度がわかってきます。 最後の質問タイムを含め、1時間半の予定を30分延長し、2時間の熱い熱い講演会となりました。奈良美智さん、おつかれさまでした。 会場のようす 撮影:大村昌之 開催概要 ギャラリー4 5月24日(火)-11月13日(日) 8月8日(月)-15日(月)は休館です 10:00-17:00 (金曜日、土曜日は10:00-20:00)※入館は閉館30分前まで 月曜日[ただし7月18日、9月19日、10月10日の祝日は開館]、7月19日(火)、8月8日(月)-15日(月)、9月20日(火)、10月11日(火) 一般 430円 (220円)大学生 130円 (70円) 高校生以下および18歳未満、65歳以上、「MOMATパスポート」をお持ちの方、友の会・賛助会会員、MOMAT支援サークルパートナー企業(同伴者1名迄。シルバー会員は本人のみ)、キャンパスメンバーズ、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。 それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、会員証、職員証、障害者手帳等をご提示ください。( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 お得な観覧券「MOMATパスポート」でご覧いただけます。キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示により無料でご覧いただけます。 本展の観覧料で、入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 毎月第一日曜日 [ 6月5日(日)、7月3日(日)、8月7日(日)、9月4日(日)、10月2日(日)、11月6日(日)] および11月3日(木、文化の日) 東京国立近代美術館
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ようこそ日本へ:1920‐30年代のツーリズムとデザイン
展覧会について 鉄道や航路などの交通網の整備を背景に、第一次世界大戦後には世界的な海外旅行ブームの時代が到来しました。シベリア鉄道との連絡による南満州鉄道の国際線化(1911年頃)やパナマ運河(1914年)の完成によって、日本にも海外から観光客が押し寄せてくるようになります。 日本政府は1930年に国際観光局を発足させ「観光立国」をめざして外客誘致キャンペーンを展開、画家やデザイナーを動員し「美しい日本」を対外的にアピールしました。こうした観光キャンペーンが功を奏し、また円安効果もあって1930年代中頃には外国人観光客は4万人を超え、その消費額は1億円を突破、観光産業は綿織物、生糸、人絹織物に次ぐ第四位の外貨獲得高を占める重要産業として大きく成長を遂げました。 この展覧会ではジャパン・ツーリスト・ビューローや国際観光局などの政府機関、また、日本郵船や大阪商船などの船会社が制作したポスター、グラフ誌、パンフレットなどを通じて、当時の日本の観光資源とそこから浮かび上がってくる日本のイメージを探ります。 カタログ情報 イベント ギャラリートーク 日程:2月13日(土) 木田拓也(東京国立近代美術館工芸館 主任研究員・本展企画者) 2月20日(土) 志澤政勝(横浜みなと博物館館長)時間: いずれも 15:00 ‐ 16:00場所: ギャラリー4 ※申込不要、参加無料(要観覧券) 開催概要 ギャラリー4 2016年1月9日(土) - 2016年2月28日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00) 入館は閉館30分前まで 一般 430円 (220円)大学生 130円 (70円) 高校生以下および18歳未満、65歳以上、キャンパスメンバーズ、「MOMATパスポート」をお持ちの方、友の会「MOMATサポーターズ」、賛助会員「MOMATメンバーズ」会員の方、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。 それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、会員証、障害者手帳等をご提示ください。( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 ※お得な観覧券「MOMATパスポート」でご覧いただけます。キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示により無料でご覧いただけます。 本展の観覧料で、入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(所蔵品ギャラリー、4-2F)をご観覧いただけます。 「恩地孝四郎展」のチケットでも、入館当日に限り本展と所蔵作品展「MOMATコレクション」をご覧いただけます。 2月7日(日) 東京国立近代美術館
「事物」――1970年代の日本の写真と美術を考えるキーワード コレクションを中心とした小企画
展覧会について 1970年代、日本の写真界において「事物」がキーワードとして浮上します。60年代末、既成の写真美学に異議申し立てをした写真家中平卓馬は、70年代に入って「アレ・ブレ・ボケ」と称されたそれまでの方法を自己批判し、写真の記録性に立ち返る「植物図鑑」的な写真へと舵を切ります。その転換の過程で、中平はくりかえし事物と写真の関係に注目しています。 ここでいう「事物」とは、レンズの向こうに現れる世界の具体的なあり方のことです。そして事物について考えることは、世界に向かい合う写真家の立ち位置への問い、言いかえれば、主体としての「人間」と、客体としての「世界」という関係の構図を、根本的に考え直すことへとつながっていきます。実はこうした思考の展開は、「もの派」など同時代の美術家たちが向かい合っていた課題とも、文脈を共有していたようです。 この展覧会では、中平に加え、当時、同じく事物と写真をめぐるユニークな思考を重ねていた大辻清司の仕事を軸に、同時代の美術も視野に入れながら、事物と写真をめぐる当時の状況を考えます。 展示構成 1.事物との遭遇 1970年5月、東京都美術館で「第10回日本国際美術展(東京ビエンナーレ) 人間と物質」が開催されます。同展は、のちに「もの派」と呼ばれることになる作家たちの問題意識を、アルテ・ポーヴェラやコンセプチュアリズムなど、海外の同時代美術と同じ文脈に位置づけた先見的な試みでした。「もの派」とその周辺の若い美術家たちは、絵画や彫刻といった表現形式や、絵具など美術のための素材を使うことを前提とせず、むしろ日常における「もの=事物」の存在に注目し、そこから新たな表現のあり方を探ろうとしていました。 この展覧会の会場記録写真の一部を担当したのが大辻清司、またカタログの表紙に写真を提供したのが中平卓馬でした。彼らはそれぞれに、70年代に入って、事物と写真の関係をめぐって思考と実践を重ねていきます。その契機のひとつとして、事物(もの)をめぐる美術家たちのさまざまな試みとの遭遇があったのです。 中平卓馬《「サーキュレーション―日付、場所、行為」より》1971年 2.アジェとエヴァンズ ウジェーヌ・アジェとウォーカー・エヴァンズ、いずれも20世紀前半、近代的な写真表現が成立していく過程で大きな役割を果たした写真家です。 アジェは世紀転換期のパリ市街をくまなく歩き回り、近代化によって失われていく古い街並や建物を、旧式の大型カメラで記録しました。エヴァンズは1930年代、大恐慌時代のアメリカで農村救済のためのドキュメンタリー写真のプロジェクトに起用されたにもかかわらず、一見メッセージの不明瞭な、それでいて画面の中のさまざまな事物が、静かに存在感を示す、多義的な写真を撮影しました。 中平卓馬は、70年代に入って、それまでのスナップショットによる「アレ・ブレ・ボケ」と称されたスタイルを否定し、事物をきちんと捉える「植物図鑑」的な写真を標榜するにあたって、アジェとエヴァンズの写真に大いに触発されました。 ウジェーヌ・アジェ《「20 Photographs by Eugène Atget」より 廃品回収業者たちの小屋》1912年 3.町と村 1970年代半ば、「事物」というキーワードを意識的にとりいれ、新たな方法論を模索したのが高梨豊です。彼は〈東京人〉(1966)や、写真集『都市へ』(1974)などの作品では、35mmカメラによるスナップショットで、急速に変化する高度経済成長期の都市の風景に向かい合ってきました。しかし70年代半ば、時代の速度が変化したことを感じると、高梨は都市に対するアプローチを転換します 〈町〉は、東京の古い街並が残る界隈を訪ね、三脚に据えた大型カメラによる、緻密な事物の記録を試みた作品です。 同じ頃、北井一夫の〈村へ〉や須田一政の〈風姿花伝〉のように、地方の暮らしやそれをとりまく風景に目を向けるいくつかの作品が現れます。しかしそこでは時代、社会、あるいは都市と地方といった枠組みや問題意識は後退し、まずは写真家が、眼の前に存在する事物といかなる関係を結ぶのかという課題が前景化しています。 須田一政《「風姿花伝」より 静岡・天城湯ヶ野》1971年 4.実験と決闘 1975年、『アサヒカメラ』に連載された「大辻清司実験室」。連載冒頭「つねづね頭の中で検討していた写真についての考え方と、実際に私が撮る写真との間に違いがあるのか、ないのか、それを確かめてみたい」と記した大辻は、まず「写真に写るのはモノ自体の姿なのであって、それっ切りなのだ」ということの確認から、実験に着手。しかし一筋縄ではいかない写真の奥深さへと、その思索は展開していきます。 76年、同じく『アサヒカメラ』に、篠山紀信の写真と中平卓馬の文章による「決闘写真論」が連載されます。翌年刊行された同題の単行書には、中平によるアジェ論、エヴァンズ論も収録されました。アジェ、エヴァンズ、そして篠山の写真との対峙を経て、中平は『なぜ、植物図鑑か』での模索をふりかえり、「要するに予断を捨て、判断を停止して、まっすぐに事物をみつめよという簡単なことだった」と、連載の最終回に記します。 大辻清司《まるめて玉になったメモ用紙》1975年 5.もの・単体・予兆 「事物から存在へ」、これは1969年、美術出版社が公募した芸術評論賞において佳作となった李禹煥の論文の表題です。彼は当時、人間の認識の外で、厳然と存在する世界のあり方に関心を向け、それといかに出会うかを問い、「もの派」を理論的に主導していくことになります。同じ頃、世界の認識をめぐる思考実験ともいうべき独自の制作を重ねていた高松次郎や、世界と触れ合う接触面における皮膚感覚のようなものに関心を抱いた榎倉康二といった美術家たちが、それぞれの思索や制作の手がかりとして、さまざまな方法で向かい合ったのが、「事物」でした。 その模索は、人間中心の世界像を疑い、ありのままの世界、ありのままの事物を捉える方法としての写真の使い方を探ろうとした中平卓馬の当時の問題意識と、文脈を共有していたようです。 高松次郎《木の単体》1971年 Ⓒ Estate of Jiro Takamatsu / Courtesy of Yumiko Chiba Associates カタログ情報 イベント キュレータートーク 増田玲(本展企画者・当館主任研究員) 2015 年6 月27 日(土) 11:00-2015 年7 月24 日(金) 18:00- 場所:ギャラリー4*申込不要、要観覧券 開催概要 ギャラリー4 5月26日(火)~9月13日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)※入館は閉館30分前まで 月曜日[ただし、7月20日(月・祝)は開館]、7月21日(火) 一般 430円 (220円)大学生 130円 (70円) 高校生以下および18歳未満、65歳以上、「MOMATパスポート」をお持ちの方、友の会・賛助会会員、キャンパスメンバーズ、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。 それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、会員証、障害者手帳等をご提示ください。( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 ※お得な観覧券「MOMATパスポート」でご覧いただけます。キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示により無料でご覧いただけます。本展の観覧料で、入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(所蔵品ギャラリー、4-2F)と工芸館所蔵作品展もご観覧いただけます。 6月7日(日)、7月5日(日)、8月2日(日)、9月6日(日) 東京国立近代美術館
プレイバック・アーティスト・トーク
概要 当館では2005年以来、コレクション展に展示された作品の前で、活躍中のアーティスト本人に自作について語っていただく「アーティスト・トーク」を開催してきました。この催しはこれまでに30回を数えます。そもそも、現代の作品に接するための親しみやすい導入になることを期待して始められた催しでしたが、事実、それぞれのトークでは、作者のそれまでの歩みや、そのときに考えていたことなどがわかりやすく語られており、理解を深める上で貴重な機会となっています。そしてこれらのトークを収録した映像は、長い目で見れば歴史的証言にもなっていくに違いありません。 このたびの展示では、これまでのさまざまな分野のトークの中から、とくに絵画に焦点をあて、トークのダイジェスト映像と当館コレクションの作品約40点とをあわせてご紹介します。登場する画家たちはいずれも、1970年代末から80年代にかけて発表を始めていますが、それはまさに、ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートといった、従来の美術のあり方を厳しく問い直そうとする動向の後を受けた、難しい時期に当たります。表現が極限まで切り詰められ、「見ること」「作ること」を根本から捉え直さなければならなかった状況から、彼らは絵画の豊かな可能性をどのようにして取り戻していったのか。そうした課題の追求の成果が、彼らのトークや作品から感じ取れることでしょう。 ここが見どころ そうか…そんなことを考えながら描いていたのか。 12人の画家が、自身の作品について、あるいは制作しながら考えていたことなどを、わかりやすく語ったトークの様子を、それぞれ15分程度にまとめた映像を展覧会場でご覧いただけます。作品と一緒に映像を見ることで、現代絵画がより身近に見えてくるはず。 トークの一部を書き起こした無料小冊子を配布 12人の画家のトークのハイライトを活字化。作品の図版もあわせて、文庫サイズの小冊子にまとめました。展覧会ご入場時におひとり一冊、無料でさしあげます。 同時代を見つめてきた批評家の言葉は? 展覧会会期中には関連イベントとして、今回取り上げた12人の画家たちの仕事を継続的に見てきた3人の美術批評家(天野一夫、谷新、建畠晢)の講演会を開催します。会場では作家の言葉を、そして講演会では批評家の言葉を聞くことで、現代絵画の課題が立体的に浮かび上がってくるでしょう。 YouTubeでプロモーションビデオ配信 12人の画家のトークから、それぞれ印象的な言葉を集めて、約4分のプロモーションビデオを作成しました。YouTubeでご覧いただけます。気になる言葉に出会ったら、続きはぜひ会場でじっくりと。 作家紹介 秋岡美帆 Akioka Miho 1952年神戸市生まれ。79年大阪教育大学大学院修了。82年に最初の個展(信濃橋画廊、大阪)。88年日本国際美術展で東京国立近代美術館賞受賞。90年「シガアニュアル90 写真による現代版画」(滋賀県立近代美術館)などに出品。94-95年、文化庁派遣芸術家在外研修員としてフランス、アメリカに滞在。2002年三重県立美術館で個展。現在大阪教育大学教授。 https://www.youtube.com/watch?v=f1r1LyEc2P0 岡村桂三郎 Okamura Keizaburo 1958年東京都生まれ。88年東京藝術大学大学院後期博士課程満期退学。84年から93年まで創画展に出品するが、その後は個展、グループ展を発表の場とし、93年「ART IN JAPANESQUE」(O美術館)、93年「現代絵画の一断面 『日本画』を越えて」(東京都美術館)、98年「『日本画』純粋と越境」(練馬区立美術館)などに出品するほか、2008年に神奈川県立近代美術館(鎌倉)で個展を開催。現在多摩美術大学教授。 https://www.youtube.com/watch?v=EOZ4NgyADw4 児玉靖枝 Kodama Yasue 1961年神戸市生まれ。86年京都市立芸術大学大学院修了。同年最初の個展(アートスペース虹、京都)。95年「視ることのアレゴリー」(セゾン美術館)、2002年「未来予想図」(兵庫県立美術館)、2010年「プライマリー・フィールド2」(神奈川県立近代美術館・葉山)などに出品。現在宝塚大学教授。 https://www.youtube.com/watch?v=W07HV6yOp0I 小林正人 Kobayashi Masato 1957年東京都生まれ。84年東京藝術大学卒業。85年に最初の個展(鎌倉画廊、東京)。89年「色彩とモノクローム」(東京国立近代美術館)、94年VOCA展(上野の森美術館/奨励賞)、95年「絵画、唯一なるもの」(東京国立近代美術館)、96年サンパウロ・ビエンナーレなどに出品。97年から2006年までベルギーのゲントで制作。2000年宮城県美術館、01年ゲント市立現代美術館、09年高梁市成羽美術館で個展。現在東京藝術大学准教授。 https://www.youtube.com/watch?v=I9HJbs6r_D0 鈴木省三 Suzuki Shozo 1946年大阪府生まれ。69年同志社大学卒業。70年フォルム洋画研究所にて研修。78年に最初の個展(藍画廊、東京)。89年「色彩とモノクローム」(東京国立近代美術館)、91年「今日の作家展」(横浜市民ギャラリー)、2001年インド・トリエンナーレ、同年「色の博物誌・緑」(目黒区美術館)、05年「絵画の行方―現代美術の美しさって何?」(府中市美術館)などに出品。 https://www.youtube.com/watch?v=q0Ho0xtw2ao 辰野登恵子 Tatsuno Toeko 1950年長野県生まれ。74年東京藝術大学大学院修了。73年に最初の個展(村松画廊、東京)。80年「Art Today 80 絵画の問題展」(西武美術館)、84年「メタファーとシンボル」(東京国立近代美術館)、87年「絵画1977-1987」(国立国際美術館)、94年サンパウロ・ビエンナーレなど多数の展覧会に出品。95年に東京国立近代美術館で個展、2012年「与えられた形象 辰野登恵子・柴田敏雄展」(国立新美術館)開催。現在多摩美術大学教授。 https://www.youtube.com/watch?v=6fH_N9c7dDs 堂本右美 Domoto Yuumi 1960年パリ生まれ。多摩美術大学、クーパ-ユニオン・ファインアート(ニューヨーク)卒業。90年に最初の個展(佐賀町エキジビットスペース、東京)。94年釜山ビエンナーレ、95年・99年VOCA展奨励賞、95年「絵画考 器と物差し」(水戸芸術館)、2000年「プライム 記憶された色と形」展(東京オペラシティアートギャラリー)、03年バングラデシュ・ビエンナーレなど国内外で発表。 https://www.youtube.com/watch?v=JDgqqIfDPW4 中川佳宣 Nakagawa Yoshinobu 1964年大阪府生まれ。87年大阪芸術大学卒業。同年最初の個展(番画廊、大阪)。94年「アート・ナウ94」(兵庫県立近代美術館)、同年「冒険美術」(滋賀県立近代美術館)、96年第1回昭和シェル石油現代美術賞展(最優秀賞)、同年「心を癒す植物 アート・ボタニカル・ガーデン」(目黒区美術館)、2003年「たがやすように」(和歌山県立近代美術館)、05年「三河・佐久島アートプラン21」(愛知県佐久島)、07年BIWAKOビエンナーレなどに出品。 https://www.youtube.com/watch?v=r6Vz9LDwt4Y 長沢秀之 Nagasawa Hideyuki 1947年埼玉県生まれ。72年武蔵野美術大学卒業。79年の個展(かねこ・あーとギャラリー、東京)から本格的に作家活動を始め、89年「色彩とモノクローム」(東京国立近代美術館)、90年「ART TODAY 1990」(セゾン現代美術館)、95年「絵画、唯一なるもの」(東京国立近代美術館)、99年「呼吸する風景」(埼玉県立近代美術館)などに出品。2008年には「風景からフウケイへ 長沢秀之展」(川越市立美術館)を開催。現在武蔵野美術大学教授。 https://www.youtube.com/watch?v=yDMizHf1hOE 日高理恵子 Hidaka Rieko 1958年東京都生まれ。85年武蔵野美術大学大学院修了。85年に最初の個展(みゆき画廊、東京)。95-96年、文化庁芸術家在外研修員としてドイツに滞在。93年「現代絵画の一断面 『日本画』を越えて」(東京都美術館)、97年VOCA展(上野の森美術館)、98年個展(国立国際美術館)、2005年「日本の知覚」展(クンストハウス・グラーツ他巡回)など国内外で発表。現在多摩美術大学教授。 https://www.youtube.com/watch?v=sPVcM7LQy5w 丸山直文 Maruyama Naofumi 1964年新潟県生まれ。文化服装学院、セツ・モードセミナー、Bゼミスクールに学ぶ。96-97年文化庁芸術家在外研修でドイツ滞在。90年に最初の個展(ギャラリー青山、東京)。92年「形象のはざまに」(東京国立近代美術館)、94年インド・トリエンナーレ、99年「ひそやかなラディカリズム」(東京都現代美術館)、2002年台北ビエンナーレ、08年個展(目黒区美術館)など国内外で発表。現在武蔵野美術大学教授。 https://www.youtube.com/watch?v=4veiKbQjT0s 山口啓介 Yamaguchi Keisuke 1962年兵庫県生まれ。85年武蔵野美術大学卒業。88年日本国際美術展で三重県立美術館賞。90年に同展で東京国立近代美術館賞。同年、最初の個展(ヒルサイドギャラリー、東京)。91年現代日本美術展で大賞。92-93年文化庁芸術家在外研修で渡米。また95-97年ドイツで制作。98年「アート/生態系」(宇都宮美術館)、2005年福岡アジア美術トリエンナーレなどに出品。また02年に西宮市大谷記念美術館、03年に高崎市美術館、05年に伊丹市立美術館、07年に国際芸術センター青森で個展。 https://www.youtube.com/watch?v=qW7wwzEvKj4 カタログ情報 イベント情報 講演会 天野一夫(豊田市美術館チーフキュレーター) 日程: 2013年7月6日(土)時間: 14:00-15:30 谷新(宇都宮美術館館長) 日程: 2013年7月20日(土)時間: 14:00-15:30 建畠晢(京都市立芸術大学学長) 日程: 2013年7月27日(土)時間: 14:00-15:30 *いずれも、東京国立近代美術館 講堂(地下1階)にて*申込不要、聴講無料(先着150名) 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー 2013年6月14日(金)~8月4日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00) 入館はそれぞれ閉館の30分前まで 月曜日(7月15日は開館)、7月16日(火) 一般650(450)円大学生350(200)円 ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。高校生以下および18歳未満、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料。上記料金で入館当日に限り、同時開催の「都市の無意識」、所蔵作品展「MOMATコレクション」、もご覧いただけます。 東京国立近代美術館
東京オリンピック1964 デザインプロジェクト
概要 東京オリンピックは、日本の戦後史の重要イベントとして記憶されています。オリンピックとはいうまでもなくスポーツの祭典ですが、1964(昭和39)年に開催された東京オリンピックは、第二次世界大戦で大きな打撃を受けた日本が、その終結からおよそ20年を経て、奇跡的な経済復興を成し遂げたことを国際社会に示す、日本の威信をかけた国家イベントであり、戦後日本のデザイナーが総力を挙げて取り組んだ一大デザインプロジェクトでもありました。 東京でのオリンピック開催が決定すると、1960年には「デザイン懇談会」が組織され、まずデザインポリシーが決められました。そして、デザイン評論家勝見勝の指揮のもと、シンボルマークとポスターを亀倉雄策、入場券および表彰状を原弘、識章バッジを河野鷹思、聖火リレーのトーチを柳宗理が担当したほか、田中一光をはじめとする当時の若手デザイナーたちが施設案内のためのピクトグラム、プログラムや会場案内図などの制作に組織的に取り組みました。その一連のデザインワークはその後の国際イベントのモデルともなり、国民はオリンピックを通じてデザインの力を身近に感じることになったのです。 2020年のオリンピック招致にむけた機運が高まるいま、あらためて1964年の東京オリンピックを振り返り、一連のデザインワークの全体像を追跡します。 カタログ情報 2013年刊行B5変形版、162ページ イベント情報 公開コロキウム「社会システムの中のオリンピックと<デザイン>」 佐藤道信(東京藝術大学)長田謙一(名古屋芸術大学)ジリー・トラガヌ(パーソンズ美術大学)暮沢剛巳(東京工科大学)吉本光宏(ニッセイ基礎研究所)関 雅宏(東京都生活文化局)木田拓也(当館主任研究員) 日程: 2013年4月21日(日)時間: 13:00–17:00場所: 東京国立近代美術館(本館) 地下1階 講堂主催:東京国立近代美術館、日本学術振興会科学研究費基盤研究A「社会システム<芸術>とその変容--現代における視覚文化/美術の理論構築」(研究代表:長田謙一) ※12:30開場※申込不要、参加無料(先着140名)※逐次通訳付き 座談会 「東京オリンピックのデザイン証言者」勝井三雄×小西啓介×道吉 剛 日程: 2013年5月12日(日)時間: 14:00–16:00場所: 東京国立近代美術館(本館) 地下1階 講堂※13:30開場※申込不要、参加無料(先着140名) 東京オリンピックのデザインワークに携わった勝井三雄(グラフィックデザイナー)、小西啓介(グラフィックデザイナー)、道吉 剛(デザインディレクター)の三者が登壇し、当時のエピソードなどをお話しします。 登壇者プロフィール 勝井 三雄 KATSUI Mitsuo グラフィックデザイナー1931年東京都生まれ。1955年東京教育大学(現・筑波大学)卒業後、専攻科でデザインと写真について1年間研究。1956年味の素入社。1961年よりフリー。1964年東京オリンピックでは、各種競技プログラムや駐車ステッカー、駒沢エリアのサイン計画、デザインガイドシート制作に参加する。1970年大阪万博、1975年沖縄海洋博、1985年つくば科学博のAD、1990年花博シンボルマーク等を手がける。テクノロジーを使った表現を生かし新たなコミュニケーションの領域を拓き、国内外で活躍を続ける。毎日デザイン賞、東京ADC会員賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、NY ADC金賞、ラハチ、ブルノ、メキシコ、ワルシャワ、各国ビエンナーレでグランプリ、ライプツィヒ世界で最も美しい本展最優秀賞など、受賞多数。現在JAGDA理事、日本展示学会理事、武蔵野美術大学名誉教授、名古屋学芸大学デザイン学科特別顧問。 道吉 剛 MICHIYOSHI Gow デザインディレクター1933年岡山県生まれ。桑沢デザイン研究所リビングデザイン研究科卒業。国際誌『季刊グラフィックデザイン』編集部から、1964年東京オリンピック組織委員会デザイン室で運営を担当する。1970年の日本万国博覧会(大阪万博)協会副参事デザイン担当。武蔵野美術大学で5年間、桑沢デザイン研究所で37年間非常勤講師を続ける。現在、道吉デザイン研究室代表。1985年日本図書設計家協会を創設し初代の代表となる。日本インダストリアルデザイン協会機関誌編集委員。日本出版学会理事。シンボルマークデザインでは、東京大学出版会、大学出版部協会。CI計画では、国際連合大学、東京造形大学、ユネスコ・アジア文化センターなど。 小西啓介 KONISHI Keisuke グラフィックデザイナー1943年東京都生まれ。都立工芸高校図案科卒。1961年日本デザインセンター入社、原弘に師事する。1964年東京オリンピックでは、会報誌等ブックデザインを中心に参加する。平凡社、河出書房、筑摩書房、朝日新聞社、日経新聞社、東京国立近代美術館等のブックデザイン、朝日麦酒、旭化成、トヨタ等の広告に従事。1974年サン・アドに入社。1982年小西啓介デザイン室設立。雑誌『Hanako』は創刊からADとして参加。主な受賞に、 日宣美展奨励賞、同特選。東京ADC賞、東京ADC会員賞、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、広告電通賞など。「東京オリンピック1964 デザインプロジェクト」展のポスター、チラシ、カタログ表紙を担当。 ギャラリー・トーク 木田拓也(当館主任研究員) 日程:2013年2月24日(日) 寺本美奈子(印刷博物館) 日程:2013年3月17日(日) 内藤陽介(郵便学者) 日程:2013年4月14日(日) 鎮目良文(たばこと塩の博物館) 日程:2013年5月19日(日) 時間: 15:00–16:00場所: ギャラリー4 (2F)※申込不要、参加無料(要観覧券) 開催概要 東京国立近代美術館 ギャラリー4 2013年2月13日(水)~5月26日(日) 10:00–17:00 (金曜日は10:00–20:00)*入館は閉館30分前まで 月曜日(ただし、3月25日、4月1日、8日、29日、5月6日は開館)、5月7日(火) 一般420円(210円)大学生130円(70円) ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。入館当日に限り、「フランシス・ベーコン展」(3/8~)の観覧料でも本展と所蔵作品展をご観覧いただけます。 3月3日(日)、4月7日(日)、5月5日(日)、5月18日(土・国際博物館の日) 東京国立近代美術館 公益財団法人 日本オリンピック委員会、特定非営利活動法人 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会 たばこと塩の博物館、逓信総合博物館、独立行政法人日本スポーツ振興センター 秩父宮記念スポーツ博物館、東京都江戸東京博物館、凸版印刷株式会社 印刷博物館、新潟県立近代美術館
てぶくろ|ろくぶて コレクションを中心とした小企画
展覧会について 私たちは、どのようにして私たちを取り巻く世界と出会うのでしょうか。 たとえば、今そこにあるモノは、私が見ていない時にもちゃんとそこに存在するのでしょうか。それとも、私が見ているからこそモノはそこにあり、私抜きではモノは存在しない、つまり私が知覚していなければ私を取り巻く世界も消えてしまうのでしょうか。 反対に、私はそんなに大した存在ではなく、私もまた世界に無数にあるモノの一つに過ぎないのでしょうか。しかしそのとき、他のモノとはちょっと違うはずの「モノを知覚している私」という存在を一体どう考えればいいのでしょうか。 フランスの哲学者、モーリス・メルロ=ポンティ(1908‐1961)は、「私」だけがあるのでも「モノ」だけがあるのでもない、「私」と「モノ」が出会う、その接触面にだけ、世界は成立するのだと考えました。ちょうど、手袋の布一枚をはさんで内側の「私」と向こう側の「世界」が触れ合うように。メルロ=ポンティの著作は1960-70年代、アーティストに大きな影響を与えました。 この小企画展は、メルロ=ポンティを隠れた案内人に、「リヴァーシブルについて考える」「私が私にさわる」「一点透視法を疑う」などのテーマで、オブジェ、写真、映像、絵画など約30点をご紹介するものです。 展示構成 Ⅰ. リヴァーシブルについて考える 最初の部屋では、手にまつわる岡崎和郎の作品を中心にご紹介します。 たとえば、おのれを握る人間の手を「知覚」して凹んだ棒とボール。モノを知覚する人間の立場から離れ、モノの側が人間を知覚するようすを捉えています。知覚する私と知覚されるモノとがくるっと入れ替わることを、メルロ=ポンティは「可逆性(リヴァーシブルであること)」と呼びました。 私とモノの世界との間のリヴァーシブルな入れ替わりが起こる場所のひとつが、手です。岡崎にとってもメルロ=ポンティにとっても、手は、私に属しながら、モノの世界の中に真っ先に伸びてゆくという点で、私と世界のあいだに位置する特別な存在のようです。またメルロ=ポンティは、手を舞台として起こる私とモノとのリヴァーシブルな関係について、手袋のたとえを借りて語っています。手袋の内側に手があり、手袋の外側にモノの世界がある。両者の接点である手袋の布地の部分で人と世界は出会う。布地はまた、手とモノが簡単に入れ替わる裏返し点なのだ、と。 Ⅱ. 私が私にさわる この章では、私をさわる私、というテーマにまつわる作品をご紹介します。私の右手が私の左手に触れるとき、どちらの手が「手というモノを知覚する私」で、どちらの手が「私に知覚される、手というモノ」なのか、区別をつけることはできない、とメルロ=ポンティは言います。つまりここにも私とモノの世界とが入れ替わる、リヴァーシブルなポイントがあるのです。 「私をさわる私」のリヴァーシブルな関係、というテーマはまた、鏡というテーマにつながっています。なぜなら、人は鏡の前に立って自分で自分を見るとき、やはり自分というモノを自分自身で知覚しているからです。メルロ=ポンティがさかんに読まれた1960-70年代には、多くのアーティストが、新しいメディアであるヴィデオを用いて、この「自分を見る自分」という問題を考えました。 Ⅲ. 一点透視法を疑う 最後に、一点透視法への疑いを表す作品をご紹介します。 遠近法は、平らな画面に空間の奥行きを描き表すための技法です。その一種である一点透視法は、地平線上にひとつの点(消失点)を置き、そこに向ってすべてのモノが小さくなっていくように描くやり方で、ヨーロッパで発達しました。 一点透視法の特徴は、「私」が真正面から消失点に目を据え、身動きせずに外の世界を眺める態度を基礎に描かれていること。メルロ=ポンティは、「私」と世界がまるで敵対するようによそよそしく向い合う一点透視法の考え方を疑いました。「私」の身体は、実際には空間に入り込み、動き回り、さまざまな角度から世界を知覚するものだからです。その疑いを共有する人物として、メルロ=ポンティがたびたび論じたのが、画家、ポール・セザンヌでした。 美術の世界では、1960年代、パフォーマンスやヴィデオといった多様な表現手段が登場します。その中で、長く美術の中心に位置した絵画と、その絵画をしばってきた一点透視法とを問い直す作品が多く作られました。 ポール・セザンヌ 《大きな花束》 1892-95年頃 カタログ情報 イベント キュレータートーク 蔵屋美香(本展企画者・当館美術課長) 2015年 10月10日[土] 15:30-16:302015年 10月30日[金] 18:00-19:00 場所:ギャラリー4*申込不要、要観覧券 開催概要 ギャラリー4 9月19日(土)~12月13日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00) 入館は閉館30分前まで 月曜日[ただし、9月21日、10月12日、11月23日、、12月7日は開館]、9月24日、10月13日、11月24日 一般 430円 (220円)大学生 130円 (70円) 高校生以下および18歳未満、65歳以上、「MOMATパスポート」をお持ちの方、友の会・賛助会会員、キャンパスメンバーズ、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。 *それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、会員証、障害者手帳等をご提示ください。( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 ※お得な観覧券「MOMATパスポート」でご覧いただけます。キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示により無料でご覧いただけます。 *本展の観覧料で、入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 10月4日(日)、11月1日(日) 、11月3日(火・文化の日)、12月6日(日) 東京国立近代美術館 所蔵品ギャラリー内での撮影禁止について 今会期(9月19日~12月13日)は「特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。」の開催にともない混雑が予想されるため、所蔵品ギャラリーおよびギャラリー4における撮影はご遠慮願います。ご了承ください。
生誕110年 片岡球子展
概要 日本画家・片岡球子(1905-2008)は鮮烈な色彩、大胆にデフォルメされた形、力強い筆使いの画風で知られています。これらは、球子独自のものとして戦後の日本美術院において他の画家の追随を許しませんでした。 球子の制作は対象をじっくりと観察することから始まりますが 対象に深く没入するのではなく、むしろ対象を咀嚼するかのように、自分の眼に映るものを自分の感覚に引きつけ、独特の色使いと形のとらえ方によってつかみ取ります。歴史上の人物のように眼の前に存在しない対象を描く場合も同様です。現代を生きる人間として描かれる球子の歴史人物画は、他の作家たちが描くものとは全く性格が異なります。 さらに晩年には裸婦という新たな主題に取り組みます。眼の前の対象に忠実に、その形や重量感を線と色彩によってとらえようとする態度からは、描くことの意味を常に問い続ける球子の意欲がうかがえます。球子のこうした姿勢は、創立当時の日本美術院の作家達の制作態度にも通じ、またこれまでの日本画の枠組みを超えようとする後進の作家達にも大きな刺激となったことでしょう。 本展では、代表作によって球子の画業をたどるとともに、遺されたスケッチ、資料類もあわせて展示します。作家がどのように眼の前の世界と向き合い、どのようにその世界をとらえたかを示すことで、作家の芸術の本質に迫るとともに、その今日的意味を探ります。 出品点数:本画 約60点、スケッチ・資料類 約40点 見どころ 球子の画風の核心をスケッチから探る 球子はよく外に出かけては、山などの写生を行っていました。写生を出発点として本画を描くというのは一般的によくある手法です。鮮やかな色彩、思い切りデフォルメされた形…一度見たら忘れることができない球子の本画ですが、写生の時、対象物はどのように球子の眼に映っていたのでしょうか。 本展では、球子が遺した350冊あまりのスケッチブックを調査、精選し紹介します。球子の画風はなぜあれほどまでに強烈なのか、その秘密が明らかになるでしょう。 球子の代表作、勢ぞろい 本展では、初期代表作の《枇杷》(1930年)、鮮烈な色彩が際立つ《飼育》(54年)、舞楽を主題とした作品の代表《幻想》(61年)、〈面構〉シリーズの第1作目《面構 足利尊氏》《面構 足利義満》《面構 足利義政》(以上66年)、富士山を主題とした作品の中でも迫り来る山容が迫力満点の《山(富士山)》(64年)、背景に文様が描かれたものとしては例の少ない《ポーズ2》(84年)、文化勲章受章記念展に出品された《富士に献花》(90年)など、代表作を多数展示します。 知る人ぞ知る作品たち 約80年にわたる画業の間に生み出された作品は膨大な数にのぼります。その中には、画集や古いモノクロ写真で知られてはいるものの、実物を見られる機会がなかなかない作品もあります。 今回の展覧会では、そのような作品として《曼珠沙華》(横浜美術協会第5回展出品、1936年)、《羽衣滝》(個展出品、61年)、《梅図》(67年頃)などを展示します。いずれも、これまでほとんど公開されることのなかったものでありながら、実は球子芸術の特質を明らかにするうえで重要な作品です。 章構成 1章 1926(昭和元)年に女子美術学校(現在の女子美術大学)を卒業した球子は横浜市立大岡尋常高等小学校の教諭を務めながら、寸暇を惜しんで制作に励みました。日本美術院展に出品するも一時は連続して落選し、自身を「落選の神様」と称することもありましたが、研究に真摯に取り組み続け、やがて日本美術院の同人となりました。 この時期の球子は、おだやかな色彩、おとなしい筆線によって、《枇杷》(1930年)のように対象の形態を忠実に把握しようとしたり、《炬燵》(35年)のようにものの質感を表現しようとしたりしています。そこには、女子美術学校時代に身につけた、対象をじっくりと観察し、対象に深く没入する姿勢が見て取れます。 2章 やがて球子の作品には変化が訪れます。《海(小田原海岸)》(1959年)や《山(富士山)》(64年)のように、大胆な形態の把握、鮮やかな色彩の使用によって個性的な画風を確立したのです。その強烈な表現は他の日本画家の追随を許さないものでしたが、球子自身にとっては奇をてらおうとしたものではありませんでした。対象に向き合いその本質に極限まで迫ろうとする中で生まれたものだったからです。目の前の海や山は球子ならではの造形感覚で消化されます。そして、それ自体が別の生き物のごとくうごめき出すかのような、2次元の画面へと生まれ変わるのです。 3章 球子は1966年から、ライフワークである〈面構〉のシリーズに着手しました。描かれるのは歴史上の人物がほとんどです。山や海とは違い、目の前に存在しない対象という意味では、歌舞伎や能、舞楽を題材にした作品に描かれる人物も同様です。演じ手は目の前にいますが、その背後には物語の世界が広がっています。 自分の生きている今とは別の場所にいる人々を描くため、まずは古美術に表された図像や現役の役者に徹底的に取材します。しかしその後は、人物を取り巻く世界を球子の感覚に基づいた色や形で構築するのです。歴史人物にいたっては、その人がもし現代に生きていたら何を考えるかを想像します。目の前に存在しないものも、常に自分に引きつけてとらえる、それが球子流の手法なのです。 4章 1983年、球子は78歳にして、裸婦という新たなテーマに取り組み始めました。さまざまな色が混じりあった背景に描かれる裸婦の姿には、これまでの作品にあるような鮮やかな色彩や大胆な造形は見られません。体の微妙な凹凸が線描と彩色で注意深く表されています。何本もの線が重なりあうさまは、じっとモデルを観察しながら、体のラインを探り当てようとしているかのようです。 裸婦は、具体的なものが何も描かれない背景にさまざまなポーズで表わされています。画面の中で浮かんでいるようにも、横たわっているようにも、もたれているようにも見えます。裸婦が画面の四角い枠の中に押し込まれたようなものもあります。 〈面構〉のようにストーリーがあるわけでもなく、静かに目の前に存在する裸体の何をどうとらえるか、それをどのように絵画という四角く区切られた2次元の世界に表すか。それは、長い画業の中で絶えず取り組んできた、観察すること、描くことの本質を探ろうとする行為でした。 作家略歴 片岡球子 略年譜 1905(明治38)年 1月5日、札幌市に生まれる1926(大正15/昭和元)年 21歳 女子美術学校日本画科高等科を卒業。許嫁との結婚を断り画家の道を選ぶ。横浜市立大岡尋常高等小学校で教諭を務める傍ら制作に励む1930(昭和5)年 25歳 第17回院展に《枇杷》を初出品、入選する1955(昭和30)年 50歳 横浜市立大岡小学校を退職、女子美術大学で教鞭を取る1962(昭和37)年 57歳 9月、ヨーロッパへ出発。フランス、イタリア、イギリスをめぐり11月帰国(その後も数度、短期間渡欧する)1966(昭和41)年 61歳 愛知県立芸術大学が開校し日本画科の教授となる。〈面構〉シリーズの制作を始める1983(昭和58)年 78歳 〈ポーズ〉シリーズの制作を始める1989(昭和64/平成元)年 84歳 文化勲章を受章2008(平成20)年 103歳 1月16日、急性心不全のため逝去 カタログ情報 イベント 講演会 山本直彰(画家、武蔵野美術大学特任教授)「先生として、そして作家からの視点」 日程: 2015年4月11日(土)時間: 14:00-15:30場所: 東京国立近代美術館講堂(地下1階) *聴講無料、申込不要、先着140名*開場は開演の30分前 山梨俊夫(国立国際美術館長)「片岡球子の破格と正統」 日程: 2015年5月2日(土)時間: 14:00-15:30場所: 東京国立近代美術館講堂(地下1階) *聴講無料、申込不要、先着140名*開場は開演の30分前 球子の教え子であるお二人にお話をうかがいます。 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー 2015年4月7日 - 2015年5月17日 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00) 入館は閉館30分前まで 月曜日(ただし5 月4 日は開館) 一般1400(1200/1000)円大学生900(800/600)円高校生400(300/200)円ペアチケット 2枚で2000円(前売のみ) ( )内は前売/20名以上の団体料金。いずれも消費税込。中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。前売券およびペアチケット販売期間は2015年3月11日(水)-2015年4月6日(月) 本展の観覧料で入館当日に限り、「大阪万博1970 デザインプロジェクト」(2Fギャラリー4)、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご覧いただけます。 前売券[4月6日(月)まで]および当日券は、東京国立近代美術館券売所(開館日のみ)、オンラインチケット、チケットぴあ[Pコード:766-587(前売/当日)]、ローソンチケット[Lコード:36740]、セブン-イレブン[セブンコード:035-323]ほか、各種プレイガイドにてお求めいただけます。手数料がかかる場合がございます。 東京国立近代美術館、日本経済新聞社 損保ジャパン日本興亜大日本印刷 旭硝子 北海道立近代美術館 http://tamako2015.exhn.jp/ 公開は終了しました 愛知県美術館:2015年6月12日(金)-7月26日(日)
